<テーマ197>DV関係~コミュニケーション~やりとり分析(5)

<テーマ197>DV関係~コミュニケーション~やりとり分析(5)


 DV夫婦のメールのやりとりの考察を続けます。これまで、けっこうな分量になってしまったので、本項より、若干、簡略化して述べることにします。

42・妻「伝わっているよ」(X~69)
43・妻「でも、まだ今は動けない」(X~69)
44・妻「ちゃんと伝わっているけれど、それでも今はどうにもできない」(X~69)

 考え、反省もしたのに伝わっていないという夫の発言に対する妻の応答です。伝わっているけれどどうしようもないと述べることで妻は自己弁護するしかなくなっています。融合的関係にあるために、妻は夫の枠内でわずかに弁解できているだけであるように私には思われるのです。
 融合的関係にあるというのは、要するに、妻はここで「私に伝わっていようといまいと、あなたには関係がないことでしょう。それはあなたの問題ではないでしょう」とは言えなくなっているということです。妻は夫を突き放すこともできなくなっているし、夫に付き合うしかなくなっているのだと思います。

45・夫「俺も考える」(X~69)
46・夫「これからのことを」(X~70)
47・夫「もう一度。」(X~70)
48・夫「君の」(X~70)
49・夫「考えもわかった」(X~70)
50・夫「今日は予想外の」(X~71)
51・夫「話だったから、悪かった」(X~71)

 夫の発言が小刻みになっています。「今は動けない」「今はどうすることもできない」という妻の発言が夫に失意をもたらしたのかもしれません。「今は一緒に住めない」は夫には受け入れがたい内容だとすれば、ここで夫は再びそれを言われたようなものだと思うのです。
 受け入れがたい部分を不意に見せつけられたように体験したのか、夫の発言はいささか神妙であります。この部分だけを読めば、夫が事態を受け入れているようにも感じられるかもしれません。

52・妻「私のほうこそ、明日の予定を今日に変えてごめん」(X~72)
53・妻「夕方は家族がいるので話し辛いと思ったの」(X~72)
54・妻「子供も寝て、家族も部屋に戻っている今がいいと思った」(X~73)
55・妻「いきなりでごめん」(X~73)

 妻の自己弁護と謝罪が述べられています。先の夫の、一見すると反省めいた発言は、罪悪感が高まっている(と仮定して)妻にとってはどのように受け取られるでしょうか。妻は罪悪感をさらに高めてしまうかもしれませんし、あなたを攻撃しているのではないということを伝えることで自分の罪悪感を軽減しようと試みたくなるかもしれません。
 ここでは、いっそのこと「じゃあ、今日はここまでにしておきましょう」と妻が言ってもよかったわけなのです。妻は夫に付き合っているのです。

56・夫「そういう時は、明日の夜に変更って」(X~73)
57・夫「言ってくれたらいいよ」(X~73)
58・夫「今日は珍しく用事が入っていて」(X~74)

 52~55の妻の発言に対する夫の応答なのですが、52と55の妻の発言のみに応答しています。53や54は無視されていることになります。53と54は別居中の妻の生活状況が語られているのであり、夫はそれには触れたくない、あるいは聞きたくないと思っていたのかもしれません。
 それを聞いてしまったためかもしれませんが、夫の言うことが混乱しています。この時、夫には次のように認識されていたのだと思います。つまり、「明日の約束を今日にしてほしいという妻の要望に応じたために、外出先で電話をしなければならなくなって、おまけにM君にも話が聞かれてしまった」というように認識されていたのだと思います。だから、そういう時は明日にしてほしいと言ってくれと述べているのです。そして、これは事実とは違うのですが、夫にはそうした反省ができなくなっているのだと思います。
 以前述べたことの繰り返しになりますが、再度注目しておきます。夫にとって圧倒されるような事態の連続だったためかもしれませんし、夫がそういう状態であったためかもしれませんが、夫はここに至るまでの経験が自我に統合されておらず、過去の体験は分断され、彼の自我から切り離されたところにあり、それを想起する時には現在の自我状態によって歪曲されてしまうのです。
 
59・妻「あなたの状況も分からなかったから、その判断もできなかった。ごめん」(X~74)
 妻は夫の認識を受け入れています。もしかすると、「何かおかしい」くらいの認識が妻にはあったかもしれませんが、それは表面に現れないのです。夫の認識している現実、歪んだ現実に、妻は適合しているのです。
 例えば、「あなたの方も都合が悪いのだったら、明後日にしてって言ってもよかったのに」と言い返しても良かったのですが、妻は一体自分が何を経験して、事実がどうであったかが、夫同様に、混乱してしまっていたのかもしれません。

60・夫「明日でお願いしていた」(X~74)
 妻が謝罪してしまうから夫の発言がエスカレートするのかもしれません。再び妻を追い込むような発言が出てきます。
 「明日でお願いしていた」これは事実そうだったのでしょう。妻がそれを今日にしてほしいと頼んだのでした。そしてその要望を受け入れたのは夫の方なのです。だから矛盾しているのです。
 しかし、夫の発言をもう少し共感的に聴いてみようと思います。
 夫がここで「明日でお願いしていた」と言っている本当の意味は、「今日の話し合いが俺には受け入れられない」ということなのだと思います。言い換えると、「明日話し合っていたら、今日のようにはならなかった」ということなのだと思います。彼は今日の話し合いを後悔しているのだと思います。
 ところで、そのような思考様式は子供に見られるものなのです。今日話し合おうと明日話し合おうと同じような結果になっていただろうと、第三者の私には見えるのです。実際、こういう結果の話し合いをこの二人は繰り返していました。だから、夫が上記のような考え方をしているのだとすれば、それは因果関係のないところに因果関係を見出していることになります。子供はこういうことをしてしまうのです。「僕が悪い子だったから、明日の遠足が雨で延期になった」とか「隣の席の子が試験中に消しゴムを落としたから、気になってテストができなかったのだ」とかいったような思考です。悪く言えば言い訳なのですが、魔術的思考の一つなのです。
 もし、夫がそういう思考をしていた(と仮定してのことですが)とすれば、夫の思考は十分に発達していないか、その試行段階に退行していたかが考えられそうに思います。私は後者の方だったと思うのですが、彼がそこまで退行しているとすれば、それだけ現状が彼には耐え難かったことが窺われるのです。

61・妻「明日にしていれば良かった」(X~75)
62・妻「タイミング悪くて」(X~75)
63・妻「ごめん」(X~75)

 妻もまた夫と同じような思考過程に入っているのか、夫の思考に適合しています。そして自分に責任のない領域で謝っています。
 確かに、明日の予定を変更してもらったのは妻の方かもしれませんが、夫はそれに同意した上で今回の話し合いに臨んでいるはずだったのです。そうした経緯は妻からは抜け落ちているのです。

64・夫「大丈夫。」(X~75)
65・夫「M君に泣き声」(X~76)
66・夫「聞かれるのも」(X~76)
67・夫「嫌でした」(X~76)
68・夫「ごめんな」(X~76)
69・夫「でも、分かってほしい」(X~77)

 明日、話し合っていればこうはならなかったのにという感情は、一部において後悔と自責感情を窺わせますが、他方においては相手に責を負わせたい感情もあるのでしょう。妻がそれに同意しているので、夫はその両方の感情を出すことになったのだと思います。
 夫は、まず「大丈夫」だと妻に安心を伝え、妻の罪悪感を軽減するような発言をし、次に「M君に聞かれたのが嫌だった」と不快体験を伝えます。それに続いて「ごめんな」と謝り、謝った矢先に「でも、(俺のことも)分かってほしい」という哀願をつなげています。感情が揺れ動いていることの証拠だと思われるのです。
 先ほどは思考という観点で考えましたが、別の見方もできるでしょう。ここで夫は妻に安心を伝え、困った体験を伝えた上で、「でも、分かって」と言っているのですが、これはどういう現象なのでしょう。一言で言うと「甘え」ということになると思います。つまり、これこれのことで困らされたけど、怒らないでと訴えているようなものであり、それを言わなきゃならない私を許してとお願いしているようなものだからです。

70・妻「うん、それは分かるよ」(X~77)
71・妻「ごめん」(X~77)

 妻はそれに応じます。そして夫を困らせたということで再び謝るのです。

72・夫「理解してくれてありがとう」(X~79)
 1~2分の間が空いて、夫の返答です。秒単位のところは分からないけれど、丸々1分の開きがあるのです。他の発言に比べて、夫の反応に時間がかかっています。これはどうしてでしょう。妻が「それは分かる」と言って、夫が単に口先だけで答えているとすれば、そんなに間隔が開かないように私は思うのです。
 もちろん、ちょっとした用事(トイレに行くとか飲み物を取ってきたとか)でケータイから離れたのかもしれませんし、次に何を言うべきかで迷ったということも考えられるでしょう。
 もしかするとですが、「甘え」の感情が受け入れてもらえたように体験したので、夫の気持ちが少し静まって、急き立てられる感じが夫から薄れていったのかもしれません。

73・妻「こちらこそ、辛い状態の中で理解を示してくれて、ありがとう」(X~80)
 妻は、単に72・夫の発言に対応しただけなのでしょう。恐らく、それほど深くは考えずに返した言葉だと思います。

74・夫「でも、けじめはつけてな」(X~80)
 少し夫の気持ちが穏やかになりかけたところだったのに、ここでは再び妻を問い詰めます。73・妻発言が彼の何かに触れてしまったのかもしれません。妻は夫も理解を示してくれたと言っていたのですが、夫はそれが受け入れがたいのかもしれません。つまり、「俺のことを理解してくれてありがとう。でも、お前のことを理解したつもりはない」という感情が働いたのかもしれないのです。
 もう一つの理解は、今回の話し合いがそろそろ収束しそうに感じられてきたので、夫は話をぶり返して、この話し合いを終わらせたくなかったのかもしれないということです。夫は妻を手放そうとしていないのです。なんとかして妻を引きとめていたいのだということです。

(文責:寺戸順司)