<テーマ196>DV関係~コミュニケーション~やりとり分析(4)

<テーマ196>DV関係~コミュニケーション~やりとり分析(4)


21・妻「分かっているけど、今は一緒に住めない」(X~61)
22・妻「私にとっても大事な時だから」(X~61)
23・妻「付き合わせてしまって悪いと思う。ごめん」(X~62)

 夫の「夫婦が離れ離れなのは良くない」という発言を受けての妻の応答です。妻の応答が再度小刻みになります。妻が夫の発言から何らかの圧力を受け取っているために動揺が生じているのではないかと思います。
 言い換えると、妻は夫のメタ・メッセージを感じ取ってはいるのですが、それに対しては応答できないでいるようであります。私だったら「どういうことが言いたいの?」と、相手にメタ・メッセージの部分を明確化してもらうようにするかもしれません。
 ここで妻は、「一緒に住めない」という主張をして、その理由を述べ、夫の反感を買わないように謝るという流れで話を進めています。

24・夫「その言葉聞いてきたけど、大事な時っていうのが、どういう意味なのかわからない」(X~64)
 21・22・23・と三回に分かれた妻のメールに対する夫の応答です。夫はそのうち22の発言にのみ触れています。21・23にはコミュニケートしていないのです。
 私はここで夫に選択的非注意が生じているように思うのです。なぜなら、22の発言は夫にとってそれほど重要な部分ではないと思うからなのです。夫にとって一番重要だったのは、21の「今は一緒に住めない」という部分ではなかったでしょうか。夫にとっては最も受け入れがたい妻の言葉だったかもしれません。夫はここに触れるのを、無意識的にだと思われるのですが、避けてしまっています。
 ここで思い出してほしいのは、この夫婦は別居中で、妻は離婚を要求しているのですが、夫はそれに応じないという状況でした。そのため、「今は一緒に住めない」というのは、この夫婦がもっとも取り上げなくてはならない部分なのです。夫はそこを回避したいのだと思います。そういう方向に話し合いが向かっていくことを避けたいのだと思います。
 話題の中に核心に触れる箇所が出てきたためか、次の発言から短いやりとりの応酬が続きます。

25・妻「私が決心できていないということ」(X~64)
26・夫「それも前向きな意味なのかどうか」(X~64)
27・妻「今の私ではこのままやっていく自信がないということ」(X~65)
28・妻「前向きかどうかも自分では分からない」(X~65)
29・妻「自分がどうしたいのかも、正直、分からない」(X~65)
30・妻「ごめんなさい」(X~65)

31・夫「もう無理しなくていいよ」(X~66)
32・妻「そういう意味ではないの」(X~66)
33・夫「自分に正直になって」(X~66)
34・妻「無理しているわけではないから」(X~66)
35・妻「正直になっても分からないから」(X~66)

 21・妻の発言、「今は一緒に住めない」は夫によって無視されてしまい、より周辺的な事柄、「その大事な時の意味とは」という夫の問いかけに妻が従っています。
 このやりとりの主導権は夫が握っており、妻は主体性を失っていて、そのために妻は夫に方向づけられるがままになっているように思われます。それがこの夫婦の関係の在り方だったのかもしれません。
 25・妻の発言は、「自分がまだ決心できていない」ので、それが「大事な時」という意味だということを言っているわけですが、本当でしょうか。妻の方はある程度決心を固めています。決心ができていないのは、むしろ夫の方ではなかったかと思うのです。
 26・夫の発言は、妻が「決心ができていない」に対して、それを問う形になっていますが、「前向き」と言うのは、夫にとって望ましいという意味だと思います。
 18・夫の発言以来、夫は自身の事柄を述べなくなっています。夫は妻に属する事柄にのみ着目しており、一方では妻に対する選択的非注意や無視が見られるのです。夫は自分出さずして、このやりとりを方向づけようとしていることになるのです。
 27~30は妻の発言ですが、妻の混乱する様子が窺われます。混乱すると同時に表現が婉曲的になっています。27は「あなたとはやっていけない」が真意でしたでしょうし、29では「自分がどうしたいのか、分からなくなった」がより正確ではないかと思うのです。
 28・妻は「前向きかどうかもわからない」と言っています。しかし、夫の言う「前向き」の意味が不鮮明であるために、答えることができないのだと思います。答えられないものに何とか無理をしてでも妻が答えようとしている姿が私には浮かんでくるのです。
 こうして妻は混乱していて、29「自分がどうしたいのかも分からない」につながるのでしょう。そして、不明瞭にしか答えられないことに対して30・妻で再度夫に謝ります。妻が謝らなければならない領域の話だったでしょうか。
 続く31・夫の発言は極めて暴力的だと感じました。あくまで言語的レベルのコミュニケーションで考えてみましょう。「どうしたいか分からない」と言っている人に対して、どんな言葉をかけるでしょうか。「何か迷っていることがあるの?」と尋ねるかもしれないし、「ゆっくり考えていいよ」と労わるかもしれませんが、決して「無理をしないでいいよ」とは言わないのではないかと私は思うのです。この言葉は相手の選択を奪うことになるからです。
 ここでの「無理しなくていいよ」には、どのようなメタ・メッセージが含まれていると考えられるでしょうか。妻とのやりとりを続けていて、夫にはこのやりとりが自分の思う方向に進んでいないことが感じられています。そして妻に対して「無理しなくていいよ」と伝えているのです。この言葉には、例えば、「無理に迷わなくても、無理に決心しなくてもいい、私の期待通りにすればいいんだ」というメッセージが含まれているかもしれません。従って、妻から選択を奪おうとする言葉であり、妻にこれ以上望ましくない方向に向かわせたくないという感情の表れであるように私には響くのです。
 もし、そうしたメタ・メッセージを含んでいないとしても、「無理をしている」というのは夫に属する観念であります。妻は一言も「無理をしている」とか、そういうことを言っていないのです。妻は夫の観念を押し付けられて、それを自分の体験としてしまうかもしれません。32・妻の「そういう意味ではないの」は、夫の「押し付け」に対しての抵抗だと思われます。
 しかし、33・夫の「自分に正直になって」で、夫はさらに畳み掛けてきます。夫は自分の観念を妻に付与しようとします。夫にはどのように妻が感じられていたかはわかりませんが、妻が「正直ではない」ということは夫の中に生まれていた観念なのです。
 妻は「無理をしている」わけでも、自分に「正直になっていない」わけでもなく、それらは夫の中で生じた観念です。妻は夫から自分ではない観念を押し付けられてしまいます。夫は自分の観念を押し付けておいて、一方では妻に「そういうことをする必要はないよ」と言っていることになります。つまり、妻は二重に拘束されるのです。妻は、自分が無理しているわけではないのに、夫から無理をしていると見做され、そして無理をするなと言われても、もともと無理をしていたわけではなかったのだから、ここで夫の認識に一致してしまうのです。
 続く、34・35・妻発言は、混乱しながらも、どうにか夫が押し付けてくる認識から逃れようとしているように見えます。恐らく、妻にはそれ以上に言えなかったことでしょう。

 この流れは特に理解してもらいたく思いますので、繰り返し説明しておきます。
 仮に妻がAという状態だとしましょう。夫には妻がBという状態に見えているとします。妻がBであるというのは、現実の妻ではなく夫の中にある観念です。そして、夫は妻にBではなくAになってと要請します。これに対して、妻が「どうして私がBだと思ったの」と訊けるような関係でないとすれば、妻は私はもともとAだったと主張するか、敢えてBになるかしかなくなるのです。妻は前者を34・35でやろうとしているのです。
 しかし、後者もあり得るのです。夫の「無理しないで」に妻が抵抗しようとするとしましょう。それは夫の側にある観念であるために、それを否定し、夫の観念を覆そうとすれば、妻は無理をすることになるでしょう。夫の観念が強力であればあるほど、妻は無理をしてそれに抵抗しなくてはならなくなるでしょう。こうして妻は夫の観念に適合してしまうかもしれません。「無理しないで」という夫の観念に一致するように妻が「無理してしまう」のです。
 また、同じように「素直になって」という夫の発言に対して、妻がそれを訂正しようとすればするほど、妻は本当に自分が取り上げたい事柄、本当に言いたい事柄から離れていくことになるでしょうから、そうなると、妻は自分に素直ではなくなっていくでしょう。こうして妻は夫の言葉の正当性を証明することになってしまい、夫の有する観念に自分を一致させてしまうことになるでしょう。
 融合的な関係においてはそのようなことが生じるのです。「無理しないで」に対して、「どうしてそう思ったの」とか「私が無理をしているようにあなたには見えるのね」と言い返すには、双方の間に距離がなければできないことなのです。

36・夫「俺もあんな病気初めてだったし」(X~67)
 夫は自分の中にある何かに妻を適合させようとしてきましたが、それが思うように進まなかったので、ここで矛先をかえています。
 夫の言う「病気」とは、ある「ストレス病」のことで、妻と別居してから罹患し、入院していた時期もあったそうです。
 構図としては、話が夫の望む方向に進まないので、夫が前の段階からやり直しているということであり、8・夫「やっぱり家に帰って話したかった」や10・夫「近くにM君がいて話し辛かったわ」辺りへと戻っていることになります。ただ、8や10の時よりも夫の感情が激しくなっていることが窺われます。
 夫のこの発言は何を本当は言いたいのでしょうか。夫はそれを仄めかしているのです。敢えて言うなら「人を病気にさせておいて、それでも出て行く気か」といったところではないかと思います。
 つまり、話が夫の思うように進まなくなると、夫は妻の罪悪感を高めるような発言をして振り出しに戻るという循環なのです。この構図を頭に入れておくと、二人のやりとりが理解しやすくなると思います。

37・妻「今のような状況で決めて、後悔したくないの」(X~67)
38・妻「病気にさせてごめん」(X~67)

 妻は再び罪悪感を高めてしまうやりとりに巻き込まれています。冷静に考えるならば、夫の病気の原因を妻に求めることはできないし、「ストレス病」に関する知識のある人であれば、夫の理屈が通らないということが理解できるでしょう。
 この箇所に限ったことではありませんが、妻はどのように応答することも本来は可能なのです。「私のせいで病気に罹ったって、そう思うのね」と共感的に接することも、「私が病気にさせたって言いたいのね」と挑戦的に応じてもいいし、「あなたの体だもの、あなたが病気になっても、私には関係ないわ」と自他の区別をつけてもいいのです。しかし、妻はある一定の反応しかできなくなっており、それしか許されていないというような状況がすでに作られていたように思います。
 37・で妻は自己弁護に努め、38・で高められた罪悪感のために謝罪するしかなくなっています。

39・夫「だいぶん考えて」(X~67)
40・夫「反省もした」(X~67)
41・夫「でも、伝わらないから」(X~68)

 夫の言い分が、今回のことがあってから、自分もしっかり考えたし(39)、反省した(40)というだけであるならまだましだっただろうと思うのですが、しっかりと釘を刺すことをしています(41)。「それだけのことをした、なのにお前には伝わらない(受け入れてくれない、理解しようとしない)」という意味合いになるのだと思います。
 この発言を非難的な色合いを帯びないようにするためには、「伝わらないから」の後を夫はきちんと言う必要があると思います。夫はそれを表現しようとはしていません。仄めかすだけなのです。

(文責:寺戸順司)