<テーマ194>DV関係~コミュニケーション~やりとり分析(2)

<テーマ194>DV関係~コミュニケーション~やりとり分析(2)

 あるDV夫婦のメールやりとりの内容を順を追って考察していきます。

1・妻「明日、電話する約束だったけれど、都合が悪くなったので、もし、今夜でもよければ話し合いたいと思います。伝えたいことなんかもあるので。子供が寝てからの方がゆっくり話せると思います」(X時)
 今回のメールは妻の方から始めています。彼らは明日話し合う約束をしていました。ここでは妻がその変更を求めています。ここで妻はすでにいくつかの過ちを犯しています。
 まず、予定の変更でありますが、妻は延期ではなく、前倒ししています。明日の予定だったのを今日にしてほしいと言っているのです。これは相手の緊張感を高めてしまうかもしれませんし、相手にある種の期待を抱かせてしまうことになるかもしれません。私はこういう場合は先延ばしする方がいいと思うのです。明日の予定だったのを明後日にしませんかと誘う方がいいわけなのです。相手に余裕を与える方が、それを奪うよりも望ましいこともあるのです。
 二つ目の過ちは、子供のことを持ち出しているということです。夫は子供と会えないということでストレスを感じているのですが、そういう夫に対してわざわざ子供のことを持ち出すのです。夫の神経に触ることになるのではないだろうかと、私はそう思うのです。
 三つ目の過ちは、夫に訊いていないという点です。これはすごく気になるところです。夫に訊くというのは、例えば「明日の約束だったけど、今夜にできないかしら」とか「都合はどうかしら」「時間はありますか」といったことであります。妻は夫の都合を訊いていないのです。
 つまり、この発言は、夫の都合を訊いたりすることなく、妻がいきなり「明日の約束を今夜にしてください。でも、子供が寝てからにしてください」と一方的に要求を押し付ける形になってしまっているのです。こうして、今回のメールやりとりは、妻が夫の緊張を高めるような形で始まっているのです。

2・夫「分かった。一時間後に電話する」(X~1)
 夫は妻の要請に応じています。ここだけは注意してほしいのですが、一時間後に電話すると言ったのは夫の方であるという点です。
 ここでも夫は「分かった、では一時間後でどう?」というように、妻に訊いていないのです。お互いに相手のことを訊いていないのです。どうしてお互いに相手に訊くという部分を省いてしまうのでしょうか。
 私はこう思うのです。夫にとっては一時間後であればOKであるのです。夫は自分がOKなのだから、相手も当然OKだと信じているのかもしれないのです。妻もまた、1のメールの時点で、わたしが今夜の方が都合がいいから夫も都合がいいだろうと信じているのかもしれません。これが融合的関係の在り方なのです。
 そして、すでに食い違いが両者の間に生じているのが分かるでしょうか。妻は「子供が寝てから」と要望を出していました。夫はそれを無視して「一時間後」と時間を決めているのです。確かに、夫婦生活を送ってきた期間があるので、夫は大体子供が何時頃に寝るかということを知っていたということも考えられます。しかし、問題はそこではないのです。
 夫は、ここでは「分かった。では、子供が寝たら電話して」とか「何時頃子供が寝るか教えて」といった応答をしていないのです。妻が一方的であったように、夫もまた一方的に「一時間後に電話する」と妻に要求を出しているのです。
 いかにお互いが相手を無視し合っているのかが窺えるように思うのです。相手の都合や事情を度外視して、自分の要求をとにかく相手に呑ませるという印象を私は受けるのです。

3・妻「はい、お願いします」(X~2)
 妻は夫に従います。妻は自分が「子供が寝てから」と指定したのを忘れてしまっているように思います。私だったら、「一時間後はまだ子供が寝ていないかもしれない。だからわたしの方から連絡するね」と答えるでしょう。
 妻は自分の要望が無視されたということに気づいていたでしょうか。それとも忘れてしまったのでしょうか。いずれにしてもそれは妻自身の何かを表現しているように思います。敢えてそれを言葉にすれば、「わたしの要望は無視して構わないのよ。わたしはそれだけの人間なの」ということを相手に伝えてしまっていないでしょうか。
 つまり、妻の自尊心がとても低くて、こういう発言にそれが明瞭に表れているように私には思われるのです。

4・夫「今、電話してもいい?」(X~10)
 3・妻のメールから8分後のことです。一時間後に電話すると夫の方から言っておいて、夫の方がその約束を変更しようとしています。
 融合的関係では、一方がやったことと同種の行為を他方もしてしまうということが見られるのですが、ここはいい例だと思います。最初は妻の方が予定を早めました。今度は夫の方が予定を早めるということをしているのです。相手に対して同じことをしてしまうのです。
 しかし、この8分間に夫に何が生じたのでしょうか。8分ほど前に「一時間後に電話する」と言ったのに、急に「やっぱり、今から電話する」という心変わりを起こしているのです。この心変わりは、夫の不安や緊張が高まってきたことを示しているように思うのです。夫は不安のために一時間が待てなくなっているということなのだと思います。
 では、一体、何が夫の落ち着きを失わせたのでしょう。何が夫の安定を奪ったのでしょう。夫の方に何かが生じたのかもしれませんが、夫の方の事情は分からないので不問にします。ここでは、それ以前のやりとりの中からそれを見出してみようと思います。
 そうすると、夫の緊張感を高めることにもっとも貢献したのは、1・妻の発言だったのではないかという気がします。妻は夫の緊張感を高めるような、夫の安定を失わせるような内容のメールを最初に送り、この時点で夫が混乱しパニックになってきたのだと思われるのです。

5・妻「はい、お願いします」(X~10)(電話で話し合う)
 妻は従順なようでいて、夫を無視しています。つまり、「一時間後って言ってたのに、どうしたの?何かあったの?」というように、夫に尋ねていないのです。
 妻は自分が振り回されると体験しているかもしれません。それは事実そうなのですが、その体験に自分自身がどのように関与してしまっているかが、まったく見えていないだろうと思います。双方が相手を微妙に無視し合っていて、当人たちは自分がそういうことをしてしまっているとは気づいていないのです。
 結局、一時間後という約束も、子供が寝てからという要望も、すべてどこかに行ってしまって、ここで二人は話し合いを始めてしまいます。

6・夫「俺もこれからどうするか、本気で考えます」(X~48)
 40分近く電話で話し合ったのでしょう。そこでどのような話し合いがなされたのかは分かりません。ただ、今度は夫の方からメールを送っています。これは電話の話し合いが夫の方により不本意だったということを示していると思います。夫がその電話での話し合いに満足していないのです。
 さて、ここで夫はこれからどうするかを考えると言っています。夫がそれをするのは構わないのですが、夫が殊更それを妻に伝えなくてはならなくなっているという点に注目したいのです。相手にそういうことを伝える時とは、一体どういう状況でしょうか、そして何を本当は伝えたいのでしょうか。
 私が最初に思ったのは、「俺もこれからどうするか、本気で考えます」の裏面には「考えを改めるなら今のうちだぞ」とか「止めるなら今だぞ」とか「後悔しても知らんぞ」といった感情が含まれているのではないかということでした。
 他にも考えられるかもしれませんが、もしそういう感情であるとすれば、夫は間接的に妻にある種の圧力を与えていることになります。「私はこうする」と言うと同時に「だからあなたはこうした方がいい」という要求を相手に伝えていることになるのです。

7・妻「こんな私でごめんなさい。なかなか今回は乗り越えられなくて」(X~52)
 妻は夫の言語的メッセージの方ではなく、メタ・メッセージの方に反応しています。言外の夫の圧力に妻が負けてしまい、妻は罪悪感に駆られています。少し説明すると、こういう流れだと思います。「俺もどうするか考える。(止めるなら今だぞ)」―「その期待に応えられないわたしが良くないんです」というつながりではないかと思います。だから妻に罪悪感が生じているのです。
 もう一つ注目したいのは後半部分です。妻は「今回はなかなか乗り越えられなくて」と述べています。本当でしょうか。この事態を乗り越えられないでいるのは、実際は夫の方ではないでしょうか。むしろ、妻は決意を固めていたはずなのです。妻の方はほとんどこの事態を乗り越えているのです。
 今回の事態が乗り越えられないでいるのが夫の方であると考えれば、妻は夫の体験をしているということになります。それが自分の体験していることなのか、相手が体験していることなのかが、境界が不明瞭なために、混乱しているのだと思います。
しかし、妻は夫の求めるような反応を示してはいません。つまり、「わたしも考え直してみる」というような反応を示していないのです。それによって、夫の発言はどうなったでしょうか。

8・夫「やっぱり家に帰ってから電話したかった」(X~52)
 夫はさらに妻に圧力を加えなければならなくなっています。妻の罪悪感をより高めるような内容を伝えているのです。
 しかし、ここは立ち止まって、現実を振り返らなければならないところです。夫は外出先で電話をしたということがここで分かるのです。一時間後と指定したのも夫であり、やっぱり今から電話すると要求してきたのも夫でした。そして、夫がどこで電話をするかということも夫の責任範囲であるはずなのです。妻の方から外出中の夫に電話をしたわけではないからです。
 これも何らかの仄めかしが含まれているのです。こういう場合、この発言の後にどういう文章が続くだろうかと考えてみるといいでしょう。「やっぱり家に帰ってから電話したかった(のに、君がそうさせてくれなかった)」であるかもしれません。

9・妻「わたし、あなたが外出中とは知らなかったから」(X~54)
 妻は弁解するしかありません。この妻がもう少ししっかりしていれば、「どこで電話をかけるかはあなたが決めたことでしょう」と、自分が負うものと相手が負わなければならないものとの区別をつけるような発言をするでしょう。
しかし、妻は7での罪悪感を引きずっていて、本当は妻の責任ではない部分であるのに、何となく自分が悪いことをしているような気持ちになってしまっていたのだと思います。妻はそれは自分の責任ではないということを伝えようとしながらも、その信念がぐらついているのが窺われるのです。
 これもこの発言の後にどういう文章が来るかを考えてみると分かりやすくなるでしょう。「わたし、あなたが外出中だとはしらなかったから(それはわたしのせいじゃないわ)」といった内容になるのではないでしょうか。妻は( )の部分こそ本当に言いたかったことなのに、罪悪感のためにそれが言えなくなってしまったのだと思います。

10・夫「近くにM君がいて、話し辛かったわ」(X~55)
 さらに夫が圧力をかけてきます。M君というのは、夫の会社の同僚の人らしくて、妻も面識のある人なのだそうです。
ここで明らかになるのは、夫は外出先で電話をしただけでなく、近くに第三者がいるような場面で電話をしていたということです。しかも、妻も面識があるという人がそこにいたということなのです。
 今から電話すると言ったのは夫の方であり、夫がどういう状況でその電話をするかということはすべて夫の責任範囲のことなのです。夫は自分の責任を回避しようとしているのか、それを自分の体験として保持していないのかどちらかだと思います。
まず、夫の言動が混乱していることが既に見て取れると思います。夫は自分から一時間後に電話すると提案しました。数分後、彼は自分から自分の提案を変更しました。そして彼は自分の意志で外出先で電話していますし、近くにM君がいるという状況を作っていました。そしてこれら一連の行為は夫の責任において、つまり夫が操作できる環境にありながら、妻の側に責任があるというようになっているのです。
 一言でいえば、夫が妻に伝えていることは夫の行為と矛盾しているということなのです。夫の方からそうしたのに、次の瞬間には妻にそうさせられたといった体験内容に変わっているのです。そして夫は妻がそうやって苦しめてくるということで妻を非難したくなっているのだと思います。
 こうした一連の流れは、夫の中に整合性や論理性が失われ、夫の内面が統一を失い、少し前の体験が切り離され、それが最初とは違った体験として想起されるようになっているのだと思われるのです(*注)。それは夫の中に混乱があるということなのです。
 このような状態の相手と話し合うということは、双方にとって危険なことなのです。と言うのは、その話し合いは双方を解体する方向に向かわせるからなのです。だから、理想を言えば、この辺りで妻の方から話し合いを打ち切るべきだったと思うのです。例えば、「少し落ち着いてから再度話し合いましょう」というような提案をしておいた方が良かったと思うのです。

(文責:寺戸順司)


(*注)
 これを説明するのが難しいので、理解してもらえるかどうか不安であります。
 まず、私たちの意識を一本の線で表します。

   一時間前                現在
    A      B      C      D (感情の変化)

 私たちの意識が途切れることなく持続していると、一時間前のことは現在としっかり結びついています。私たちは一時間前のことを現在とのつながりにおいて想起することができます。
 そして、今の感情体験がDであったとしても、一時間前のそれはAの感情体験だったということが認識できるのです。
 しかし次のような意識の在り方では、事態が異なってきます。

   一時間前                 現在
  
        A            B             C             D   (感情の変化)

 このように意識が断片化してしまうと、一時間前のことは現在とのつながりで想起されることなく、現在とは切り離されたものとして想起されてしまうのです。
 一時間前の感情がAであるとしましょう。現在はDという感情になっています。しかし、このDの感情状態で一時間前のことを想起すると、実際はAという感情体験をしていたはずなのに、Aではなくて、Dの感情体験として想起されるのです。つまり、過去が切り離されているがために、想起される過去は現在の感情によって色づけされてしまうのです。
 決して記憶を喪失しているという意味ではありません。覚えているのです。でも、想起する現在の状況によって、その記憶内容が歪んでしまうのです。

 意識や体験が断片化するということが分かりにくいかもしれません。軽度のものであれば私たちは経験することがあります。例えば、たいへんな睡魔に襲われている時とかお酒で酩酊している時などに、こうした解離体験、軽度の解離なのですが、を体験します。
 心、精神が状況に圧倒されてしまうと、一時的にこうした断片化を示すことがあります。例えばパニックに陥っている時などです。
「うつ病」などでも、これが見られます。「うつ病」においては、過去の望ましかった経験が現在とは切り離されていて、それを想起する場合でも、現在の気分に影響されて、まったく違った経験として想起されたりするのです。

 この事例の夫婦の場合、夫の側にそうした内面の解体が感じられるのです。だから、夫の方が話を続けたくても、ここは一旦話を終えないといけないのです。もし、夫の側の断片化が進行すれば、夫の言うことはさらに矛盾に満ち、支離滅裂な様相を呈してくるはずなのです。それは夫にとっても危険な状態であり、それによって妻も害を被ることになります。だから双方にとって危険だと私は述べたのです。

(文責:寺戸順司)