<9-3>親カウンセリングの過程~アウトライン

<9-3>親カウンセリングの過程

 子供の問題で親がカウンセリングを受けに来るというケースにおいて、どういうことがこのカウンセリングでなされ、この親子にどういうことが起きていくのでしょうか。それを私の経験に基づいて記述していくことにします。
 ところで、私がその種のケースを経験する場合、大抵の場合、子供が引きこもっているような状態にあり、来談するのは母親であります。父親が来談するケースもありますが、数の上では母親が大部分を占めています。そのため、もしかすると母親(女性)には理解しやすい話であるけど、父親(男性)には理解が難しいという話をしてしまうかもしれません。
 また、どのような場合でも、私の述べることには偏向があるということだけはご銘記していただきたく思います。私のところへ来談する人のタイプがあるからです。そのためにサンプルに偏りが生じるためであります。

 親カウンセリングで何が起きるのか、どのように展開するのか、そのようなことを私は自分の経験に基づいて来談された親に話していたこともありました。ところが、親はこれをプログラムかカリキュラムのような既に固定されたものと受け取ってしまったり、あるいは、私の施す技法とかやり方と解する人も現れました。それはいささか弊害になると思われたので、以後はそういうことを事前に示さなくなったのですが、すると、今度は何の指針も見えないので不安に襲われるという親が現れるようになったのでした。
 最初にこういう説明をすることが望ましいことなのか否か、私にはよく分からなくなっています。でも、おおまかにでも述べておくことは、親がカウンセラーを選ぶ際に参考にしてもらえるかもしれないと思い、ここに記す次第であります。
 最初に大雑把なアウトラインのような形で提示して、以後、詳細に入るという進展を考えています。

 まず、こういう親たちは不安に襲われていることが多いのです。先述のように過程をプログラムとして把握したりすることも親の不安の表れと見ることも可能であります。カウンセリングを受けているということに対しても不安を抱く親があるようですし、それに不安に耐える力が弱いという親もあります。
 いずれにしても、親は相当な不安を抱え、親自身が不安定になっている状態でカウンセリングを受けることが多いのです。それで最初に目指されることは、「①親の安心と安定を取り戻す」ということになります。
 最初に目指されると言いましたが、この目標は最後まで継続していくものであります。
 また、この時期に、親には子供をよく観察するようにお願いするのです。子供の観察ということに関しては後で重要になります。そのために子供との接点を持つこと、子供との窓口を増やすことができないかといろいろと検討していくのです。さらには、親が今まで試みていなかった関わり方なども模索していくことになります。

 では、親に安心感が増し、安定してくると何が生じるでしょうか。それは家庭内の雰囲気が変わるということです。家族員の一人が変わるだけでも家庭の空気が変わるものであります。
 この変化は、家族内に漲っていた不安とか緊張感の軽減として表現できるものです。一人が安定することによって、それだけでも、張りつめた空気が穏やかになるのです。
 こうした雰囲気の変化を子供も感じ取るのです。ここで観察ということが物を言うわけなのですが、子供がどのくらい安心感を得ているかを観察してもらうのです。
 この段階は、「②家族内における緊張の軽減と安全感の増加、並びに家族関係の変化」と表していいでしょう。家庭内の雰囲気に変化が現れると、家族関係にも違いが生まれてくるのです。

 次に、家庭内に安全感が増え、関係が改善していくと何が生じるかということですが、子供に余裕が生まれるということです。子供が武装解除するのです。
 要するに、家庭内の空気に対して、また、家族間の緊張関係に対して、子供は警戒したり身構えたりする必要がなくなるということです。それまで、怯え、不安にさらされ、緊張に耐えてきたエネルギー、それらに対しての防御に費やされていたエネルギーが宙に浮くわけであります。
 エネルギーが浮いてくるということは、「③子供に活動性が生まれる」、ということにつながります。この活動性は徐々にしか明瞭にならないことが多いように私は思うのですが、加えて、親の見えないところで活動性が生まれているような例もあり、親が気づくまでに時間がかかる場合もあります。
 せっかちな親はこの時点で即座に子供が外に出て働いてくれるものだと信じてしまうのですが、それにはもう一段階を経る必要があるのです。
 子供は、これまで自分を守るために費やしてきたエネルギーが宙に浮くので、その分、何かをしたくなり(そういう気持ちになるのだと私は思うのですが)、そうして実際の活動を始めるのです。
 この活動は、子供によってさまざまであります。私が経験した限りでは、次の3種に大別できるように思います。
一つは何かを作るという活動であります。これは模型であったり、絵であったり、工作であったり、料理であったり、栽培であったりします。それらは何かを作るという活動にまとめることができます。
 二つ目はどこかに行くという活動であります。これは旅行ということになるのですが、レジャー性は低く、まだ見たことのない光景を見たいとか、行ったことのない場所に行ってみたいとか、あるいか、かつて見た光景をもう一度見てみたいといった動機でなされることが多いように私は感じています。
 三つ目は身辺の整理と言えるもので、自分の所持品を片付けたり、部屋の模様替えをしたりなど、そうした活動であります。自分史を書き始めたという子供も私は経験しているのですが、それもこの活動に含めることができると思います。
 もちろん、この三種以外の活動を始める子供もあります。いずれにしても、何らかの活動性が回復し、この活動が子供の状態をさらに変えていくという循環が生まれることもあるようです。

 さて、その後のことですが、ここから先はデータが不十分なので私には何とも言えないのです。
データが不十分であるというのは、ここまでくると親が子供のことで安心でき、展望が開けるように感じられ、カウンセリングを終えられるケースも少なくないからです。その内の何人かの親は事後報告を寄越してくれるのですが、それによると、少しずつ外に出て働き始める子供もおられるようです。
 基本的に、外に出て働くかどうかは子供が決めることであり、親やカウンセラーが人為的に方向づけることもできないことであると私は考えています。それに、関係が改善すると、親子の間でそういう話し合いも可能になってくるものであります。家族間で話し合い、処理できるのであれば、カウンセラーがそれ以上関与することもないと、私は考えています。

 以上、親とのカウンセリングでどういうことが展開されるかのアウトラインを述べました。それは①親の安心感・安定感の回復、②それによる家族環境・関係の変化、③さらにそれによる子供のエネルギー分配の変化とそれに伴う活動性の増大という展開でした。そういう三段階と言いますか三つの相が確認できるケースが多いと私は感じています。
 もっとも、この三段階は必ずしもその順序で生じるとは限らないかもしれませんし、いくつかの相が同時進行することも多いように感じています。記述の必要上区別するのですが、あまり固定した概念として捉えない方がよろしいかと思います。

 さて、私たちはこれら三つの段階をさらに細かく見ていこうと思います。こうした展開に関して反論や異論を述べられた方もあり、それについても触れていくことにしたいと思います。

(文責:寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)