<8-5-3>出会いから結婚まで~出会い以前(2)

<8-5-3>出会いから結婚まで~出会い以前(2)

(出会い以前~続き)
 二人が出会ってから結婚に至るまでに「上手くいかない夫婦」が経験する諸問題を本節では考察するのですが、今は出会い以前の段階のことを取り上げています。前項では、出会い以前に当事者が経験している恋愛の困難を取り上げました。本項では生の困難を取り上げたいと思います。
 結婚前に夫も妻も自分の生活が成り立っていることが望ましいのであります。もし、当事者それぞれが社会に出て生計を立てて暮らしているということであれば、その暮らしが成り立っていなければならないのであります。その上で結婚ということになるわけであります。
 生活が成り立っていない状況で結婚に踏み切ることは、当人には過剰な負担になるのであります。この人は、生活の確立ないしは再建をしつつ、新生活を築いていかなければならないということになるからであります。その両方を同時進行でやっていかなければならないというわけあるから、その困難や負担も倍増するわけであります。
 ある男性は就職活動をしつつ結婚に踏み切りました。職に就くということは、転職等も含めて、人生上の大きな出来事であります。その一つの大事業にさらに、それと同じくらい大きな出来事である結婚ということが加わるのです。二つの大事業を同時進行でやっていこうというわけでありますが、当然、彼はそのどちらも満足に成し遂げることはできなかったのであります。
 また、ある女性は結婚前から精神的に非常に不安定になる人でした。長年精神科の治療を受けており、短期間の入院も幾度か繰り返しているという人でした。一人の男性がこの女性に惚れたのであります。こういう人を好きになる人がけっこういるものなのでありますが、彼は結婚して面倒を見て行けば彼女が回復する、とそのように誤解したのでありました。この種の誤解もよく聞く話であり、結婚で彼女のような人が回復するというのはドラマの中の話でしかないと私は考えていて、現実はその逆になることの方が圧倒的に多いという印象を受けています。正直に申し上げれば、結婚前よりも結婚後の方が彼女の状態が不安定になるのであります。結婚すること、夫婦であることのストレスが新たに彼女に加わるからであります。
 しかし、今の話にはいくつかの注意点が必要であります。彼女のような人が結婚してはいけないというわけではありませんし、彼女のような人を好きになってはいけないなどと言うつもりもありません。ただ、結婚は彼女が安定した生活を続けられるようになってから考えた方が良かったということであります。彼女が不安定な状態のまま新生活に踏み込んだので彼女の精神的な負担が過剰になってしまったのであります。この種の痛ましい(と私には感じられている)話はけっこう耳にするのであります。詳細は本節の補遺で述べることができればと思っております。今は論述を先へ進めたいと思います。

 生活の確立ということの中には経済的な問題が含まれています。結婚前に経済的にやっていけているかどうかという視点も必要になるのです。
 貢ぐというようなことがあります。経済的に苦しい男性を女性が金銭で貢ぐというような場合であります。もちろん、女性が男性に貢ぐ場合もあれば、男性が女性に貢ぐという場合もあります。結婚前の一時期においてそうであったという例もあれば、長期間に渡って貢ぎ続けたというような例もあります。また、少額を頻回に貢ぐというパターンもあれば、数は少ないけど一回の貢ぐ金額が大きいというようなパターンもあります。
 経済的に困窮している方、つまり貢いでもらっている側ということでありますが、その困窮は自業自得と呼べるものもあれば不可抗力とみなせるものもあります。困窮そのものが悪いというわけではないのですが、結婚しようと思えば、それまでにある程度の生活ができていた方が良いと思います。
 あまり思い出したくない話なのですが、昔の私の知人にミュージシャンがおりまして、彼の年収といっては数千円というところなのであります。つまり、彼は本腰入れて音楽活動をやっていないということなのですが、そんな彼が結婚したと聞いたのです。私は以後、彼と顔を合わさないようにしました。というのは、彼らのことでどんな悲惨な話を聞くことになるか恐れたのであります。結婚を機に彼が音楽を熱心にやって、ライブ活動とかもやって収入を得るようになればいいのですが(私はあまりそういう期待は持てない)、どうなったことやらであります。女性の方は、自分が愛されていれば夫の収入は気にならないと言うかもしれませんが、それも限界があるように私は感じております。

 他にもさまざまなパターンがあるのですが、今はこれ以上掘り下げないでおきましょう。上手くいかない夫婦の話を聞いていると、結婚前は生活が成り立っていなかったといった当事者もけっこうおられるものであります。そのような印象を受けるのであります。
 正しいとか間違っているとか、あるいは正常であるとか異常であるとか、そういう価値判断は抜きにして考察しています。生活が成り立っていないということは、その人の人生が上手くいっていないということになるでしょうか。上手くいかないからといって、その責任がすべてその人にあるというわけではありません。ただ、結婚するとなると、その状態が多少は改善されておいた方がいいというだけであります。
 結婚すること、夫婦になることには、それは幸福な一面もあるとは言え、多くの心的負荷もかかるのであります。その負荷に耐えられない状態のまま結婚してしまうと、その夫婦は上手くいかない確率が高まるというわけであります。必ず失敗するとまでは言わないのですが、かなり苦しい夫婦生活になり得ると思うのであります。

 さて、二人が出会う以前のことで夫婦にとって問題になることとして、恋愛の経験と生活の成り立ちという二つを取り上げました。その他、結婚や夫婦に関してもっているイメージとか理想とかいったことも重要なのでありますが、ただし、こういうものは後々忘れられていることもあり、振り返ってみても思い出せないといった例もあるので、ここでは取り上げませんでした。
 少しだけ述べておきましょう。二人が出会う以前に当事者は結婚や夫婦に関してどのようなイメージを持っていたのかということなのでありますが、あまりいいイメージを持っていない人もあるように思います。これは結婚前に持っていたイメージということでありますので、夫婦によっては十数年近く以前に持っていたイメージであることもあります。当然忘却も起こり得るのです。私も確かなことは聞けないのであります。
 結婚や夫婦に関して悪いイメージを持っている人ほど、結婚に対しての抵抗感が強くなるでしょう。結婚は、幸せな何かの始まりではなく、不幸や地獄の始まりとか楽園からの追放とかいった体験になってしまうのではないかという気もします。
 
 二人が出会う以前のその人の状況(心的、外的を含めて)は、二人が出会ってから以後も継続するのであり、その状況は良い方にも悪い方にも発展しうるものであると思います。つまり、その状況には当人が克服できない何かが含まれているのであり、二人が出会って、交際して、結婚していく過程において、克服されないまま残り続ける可能性があるわけであります。それが後の夫婦関係にも影響を及ぼすことがあるのであります。

(文責:寺戸順司-高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)