<6-3>境界例のタイプ

<6-3>「境界例」のタイプ

(「境界例」を単一の「疾患」と見なさないこと)
「心の病」にはそれぞれ名称がつけられています。この名称は幅広い概念を
総称したものであり、その中にいくつもの下位分類がなされています。例えば
「うつ病」と一言で言っても、そこには様々な「うつ病」が含まれています。
 そのことは「境界例」も例外ではありません。そこには様々なタイプが存在し
得るのです。本節ではその点について述べたいと思います。
 特に強調したいことは、「境界例」と一言で表現されることであっても、何か
単一の疾患のようなものとして捉えない方がよいということであります。
 まず、一例として、DSM-Ⅳから「境界例」の診断項目を掲げてみます。ち
なみに、現在はDSM-Ⅴが完成しており、これは一つ前の版のものです。
「境界例」が正式に診断単位として確立されたDSM-Ⅲから、根本の部分は
それほど変わっていないので、旧版ではありますが、十分用途を果たしてくれ
るでしょう。また、各項目は私が簡略化して記述していますので、原文通りで
はないということも予め申し上げておきます。

(DSM-4における「境界例」診断基準)
 対人関係、自己像、感情等の不安定さなどが成人早期までに始まり、種々
の状況で明らかになる。以下の5つ(またはそれ以上)で示される

 1・現実でも空想においても、見捨てられることを避けようとする無謀な努力
(項目5は含まれない)
 2・不安定で激しい対人関係様式
 3・同一性の障害
 4・自傷の可能性のある衝動性行為が二つ以上の領域で見られる。(項目5
は含まない)
 5・自殺関連行動、自傷行為、自殺の素振り
 6・気分反応性による感情の不安定さ
 7・慢性的な空虚感
 8・怒りの制御が困難
 9・一過性の妄想的観念、解離症状

 さて、以上がDSM-4における「境界例」の診断基準でしたが、本節で重要
なのは、9個の項目の各々に関することではありません。この基準における、
9項目中5項目以上に該当すれば「境界例」と診断していいという、この手続
きの方であります。
 もし、上記9項目すべてを満たす「境界例」の人がいるとして、その人は9項
目中5項目だけを満たしている「境界例」の人とはかなり違った観を呈することでしょう。
 また、同じ5項目を満たしている「境界例」の人でも、項目13579を満たして
いる人と項目24689を満たしている人とではタイプが異なって見えるのでは
ないかと思います。場合によっては、項目12345を満たしている人と項目
12346を満たす人の間にさえ差異が見られるかもしれません。
 9個中5個以上を満たすという条件であれば、おそらく何百通りもの組み合
わせが、計算上では、可能でしょう。それがすべて「境界例」という一語で括ら
れているということなのです。この視点を忘れないようにしていただきたく思う
のです。

(他者の巻き込みという軸)
 しかしながら、多種多様なタイプがあり得るからと言って、それを分類するこ
とに意味がないわけではありません。多すぎるタイプは混乱を招くけれど、せ
めて3つや4つくらいのタイプ分けをした方が、全体が整理されるためにも必
要であると私は考えています。
 私が個人的に採用している「境界例」タイプを以下に述べます。
 まず、成田善弘先生の「他者巻き込み型」と「自己完結型」のタイプ分けを私は借用しています(ちなみに、成田先生はこのタイプを強迫症の文脈で使用されています)。
 「他者巻き込みタイプ」というのは、その字義通りで、周囲の人を巻き込んで
しまう「境界例」傾向の人のことであります。「自己完結タイプ」というのは、周
囲を巻き込まず、自分だけで抱え込むというタイプです。
 両者は相対的なものであって、はっきりと線引きできないものであります。
「他者巻き込みタイプ」の人がまったく自分で抱えられないというわけではあり
ませんし、「自己完結タイプ」の人もまったく他者を巻き込まないというわけで
はないのです。相対的にどちらがより優位であるかという観点での分類であ
ることを指摘しておきます。
 ちなみに、「他者巻き込みタイプ」では、周囲が困惑するので、本人ではなく
家族や周囲の人がカウンセリングに訪れることが多くなります。本人は他者を
巻き込むことで、ある意味ではそれで本人の中で完結しているので、敢えて
自ら「治療」や援助を求めない傾向があるように思います。
 カウンセリングに自発的に来談される「境界例」傾向の人というのは、私の
限られた経験範囲では、圧倒的に「自己完結タイプ」に属する人たちでした。
 本人が来談されたケースでは、「他者巻き込みタイプ」はカウンセリング場面
に適応できない例が多かったように思います。しばしば、いくつもの相談機関
や医療機関を転々としているのです。一方の「自己完結タイプ」は、カウンセリ
ング場面にかろうじて適応できるという印象を私は受けています。これは、「自己完結タイプ」の方が耐性が強いためであると思われます。

(陽性と陰性という軸)
 上記の二つのタイプに、私は「陽性」と「陰性」という軸を加えることにしてい
ます。「陽性」というのは、いわば派手であったり激しいということであり、「陰
性」とはその逆を指しています。
 他者を巻き込む場合でも、派手に巻き込む人もあれば、非常に穏やかな形
で巻き込むという人があるように思うのです。対象を激しく攻撃する人もあれ
ば、いわゆる「陰性攻撃反応」で攻撃する人もあるように思われるのです。
 「自己完結タイプ」のケースでも、派手で、激しい自己完結の仕方をする人
がいます。例えば、浪費とかギャンブルとか、浴びるほど酒を飲むとか、他者
を巻き込んでいるわけではないけれど、そういう形で「問題」を抱えている人も
あるように思います。また、ひたすら内省したり、反省したり、過去を振り返っ
たり、抑うつに襲われたりと、もっと静かな形で抱える人もあるように思われる
のです。
 つまり、「陽性」とか「陰性」と私が呼ぶのは、その一部ではという意味です
が、衝動的な行動化の程度を指しているわけです。「陽性」というのは行動化
が見られる、それも頻繁で激しい行動化が見られるという意味を含んでおり、
「陰性」とは行動化の率が低いか、もっと微妙な形で、穏やかな形でなされて
いるということであります。

(「境界例」の4タイプ)
 以上のようなわけで、私は「境界例」を4つのタイプに分けるのです。すなわ
ち、「陽性の他者巻き込みタイプ」「陰性の他者巻き込みタイプ」「陽性の自己
完結タイプ」「陰性の自己完結タイプ」の4種に分けて考えています。
 今後の記述において、特にタイプを明記しないこともあるでしょうし、反対に
どのタイプの人たちのことを述べているのかを明記することもあるでしょう。一
応、私は上述の分類をしているということを記銘していただければと思いま
す。

(文責:寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)




平成28年5月24日公開