<5-4>初回面接:解説(1)

<5-4>初回面接~解説(1)

 A氏の初回面接を見ていきました。十分説明不要な内容だったとは思いますが、本章はカウンセリングの実際を見ていただくことにあるので、以下、解説をしていくことにします。

(1)
 クライアントにとってカウンセリングの開始時点を特定することは難しいのです。ここでA氏は私のカウンセリングの予約を取られたのですが、A氏の中ではすでに何らかのプロセスが始まっているものです。
 ここでのA氏の口調は、カウンセリングを受ける決意をきちんとされた人のものであります。迷いや躊躇が感じられないのです。私から見ると、それは私に「距離が近い」人として体験されるのですが、こういう人はきちんと来談されるし、カウンセリングがうまく行く可能性が高いのです。

(2)
 初回から変更がなされました。クライアントの事情もあるので、仕方がないものであります。特に説明しておきたいことは、「遅れても構いません」と私が伝えた部分です。
 どうも、変更を簡単に受理してくれないとか、クライアントに無理強いしているとか、あるいは、クライアント捕まえてなかなか放さないとか、そういうふうに受け取る人があるようなので、この場を借りて説明しておきます。
 「鉄は熱いうちに打て」というわけではないのですが、クライアントのカウンセリングへの動機づけは予約を取る時がもっとも高いと予想されます。何事であれ、動機づけが高い時には、うまく行きやすいものです。動機づけの高い状態にある時には、クライアントはカウンセリングで多くの体験や発見、学びを得るものだと私は考えています。
 だから、できる限り、予約から面接までの間隔を短くしたいと私は願うのです。クライアントの動機づけが高いうちに、一回でもカウンセリングを経験してほしいと願うのです。クライアントがそれだけカウンセリングから利益を得られるからであります。
 同じ料金を支払うのであれば、クライアントにはできるだけ多くを得てほしいと私は望むのです。だから延期よりも時間変更を勧めるわけです。私なりの親切心のつもりでしたが、誤解や歪曲されることも多いので、この場を借りて釈明した次第であります。
 なお、この間隔を特定するのは難しいことで、個人的な印象では一週間くらいだという気がしています。予約の電話から面接まで、一週間以内はクライアントの動機づけが維持されていると考えています。

(3)
 A氏との初対面の場面です。
 私は身体や容貌ということをあまり重視していません。体格と性格には関係があるという研究もあるのですが、それもあまり賛成していません。でも、まったく無視するというわけでもありません。
 身体にはその人の歴史が刻まれているものであり、言葉以上にそれを物語る場合もあります。A氏はがっしりした体格をしています。恐らく鍛えているのでしょう。そして、一朝一夕で筋肉がつくわけではないでしょうから、長期にわたってトレーニングを積んできたことでしょう。そこにはA氏の興味の対象があり、A氏の自分自身に関わる関わり方が見てとれそうに思われます。
 また、身体に関して、特に問題となるのは、現実の身体と身体像との乖離が見られる場合です。現実にはガリガリに痩せているのに、たまらなく太っているという身体像を有しているような場合に問題となるわけです。
 私の個人的な印象の範囲を出ないのですが、現実の身体と内面に持っている身体像がそれほどかけ離れていなければ、その人は自分の身体にある程度適切に関わり、身体に無理なことはしないものだと思います。A氏を見ると、そんなに無理なことをしているようには思われませんでした。
 ここで、もう一つ重要なことは、A氏の「面接申込用紙」記入の場面です。この用紙記入は、ここに来て、クライアントに最初に課せられる課題であります。クライアントがこの課題にどのような態度で臨むかということも、私は参照しております。
 A氏の場合、不安や緊張で手が震えるということもなく、落ち着いて記入しており、漏れることなく記入しています。これは、課題遂行が速やかに安定して行われているということなので、社会適応がそれなりに良好であることを示しているように思われました。また、カウンセリングに対する抵抗感も少ないという印象を受けました。

(4)
 さて、ここから面接の開始です。
 どこからでもどうぞという私の誘い掛けに応じて、A氏は「どんなことからでもって・・・カウンセリングって初めてで、何を話していいか分からない」と答えています。彼は明らかに困惑しています。彼は自分の困惑を、このカウンセリング場面に還元していますが、おそらくこれは正しくないと私は考えています。
 確かに、緊張する場面ではあると思います。初めて来る場所で、初対面の相手に向かって、自分のことを話すように求められているわけだから、ある程度の緊張を経験することは通常起こり得ることです。しかし、A氏にはそれ以外の何かがあると私は思いました。と言うのは、私はA氏にギャップを感じていたからです。
 緊張の強い人は電話で予約を取る段階からすでに緊張していることが多いのです。不安の強い人はすでに不安に襲われているものです。攻撃的な人は初対面の段階でとっくにカリカリしていたりするものなのです。
 A氏はむしろ落ち着いて、しっかりした口調で予約を取り、用紙にも記入しています。それが、実際にこうしてカウンセリングが開始されてみるとA氏がひどく緊張して、困惑し始めているのです。そこにギャップを感じていたということなのです。
 このギャップが何によってもたらされたのかは、まだまだ不明です。この場面並びに私が与えている影響によるものかもしれません。もう一つ、可能性として考えられるのは、彼が最初の予約を取ってから来談するまでの12日間に、彼を動揺させるような何かが彼に生じたかもしれないということです。この時、一応、両方の可能性を私は考えていましたが、後で、前者は否定され、後者が事実であることが判明します。

(5)
 彼がカウンセリングが初めてだということを受けて、それを返し、今、不安に思っていることや緊張していることがあるかと私が訪ねています。今、ここにおいて、彼が体験していることに焦点を当てています。つまり、現在において彼を困らせているものがあれば、それを解消しようと働きかけているわけであります。
 それと同時に、先述の可能性、この場や私が彼に緊張や不安をもたらすような何かを与えてしまっているのではないかという可能性を取り上げているわけです。

(6)
 彼は自分が緊張していることを認めています。これはいい傾向だと思いました。緊張しているのに、強がりをして、緊張していないフリをする人もあるのですが、A氏は私を前にして自分をごまかしたりしていないのです。このことは、彼は緊張しているけど、ある程度の信頼感はまだ私に対して維持されていることを示しています。
 その後、彼は「話すことが苦手だ」と答えています。この発言は、正確に言うと、「これから話そうと思うことを話すことが困難だ」という意味であると私は解しました。つまり、彼は自分でも話したくないと思うようなことを話さなければならないと感じているのであり、今の段階では、それを話す決心がついていないのだと私には思われました。

 さて、本節はここで一区切りをつけることにします。次節にて(7)の私の発言から続けていくことにします。

(文責:寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)