<5-3>初回面接(2):面接(2)

<5-3>初回面接:面接(2)

(初回面接後半部分)

 A氏「(にっこり笑って)どうぞ、いいですよ。先生の方からいろいろ訊いてくれる方が助かります」(42)
 私「今日、Aさんはとても話しにくそうにしていましたね。電話で話した時、私はあなたに関して、もっと違った印象を持っていたのですよ。お会いしてみて、ずいぶん、印象が違うなって思ったんですよ。まるで、ここに来て話し合うことがやましいことか何かのように感じているようだった。きっと、何かあったんでしょうね」(43)
 A氏「(驚く)そんなことまでわかるのですか。実は、妻との間で一悶着あったんですよ」と、A氏は妻との間で起きたことを話します。かいつまんで述べると、それは以下のようないきさつでした。
 妻はA氏をDV「加害者」と見做しており、カウンセリングや治療をA氏に受けることを妻は求めてきました。およそ一年近くA氏はそれを拒んでいました。今回、妻の要望に沿おうと思い、A氏はいろいろ探されて、私のところを見つけたのでした。しかし、妻はA氏の選択に賛成しませんでした。彼女は「DV加害者のための更生プログラム」のようなものを実施している機関を推薦してきます。推薦すると言っても、実際は強く要望しているといった感じだったらしいのですが、A氏はそこには行きたくないと答え、妻の反対を押し切って、今日はここに来たと説明します。(44)
 私「そこまでして今日は来られたのですね。私の何がよさそうだなって思ったのでしょうか」(45)
 A氏「サイトを読んで、「加害者」と「被害者」をはっきり分けない考え方に好感が持てた。加害者も被害者も、同じように援助してきた人というイメージがあった」(46)
 私「そういうイメージを持たれていたんですね。それにしても、奥さんが反対しているのだったら、今日はここに来るのも辛かったのではありませんか」(47)
 A氏「正直に言うと、そうなんです。(時計を見る)この時間に帰宅していないということは、妻はここ(カウンセリング)に来ていると判断することになっています。ここのカウンセリングを断って、まっすぐ帰宅すること、○時までに帰ってこなかったら裏切ったとみなすと、妻はそう言ってました。もうその時間も過ぎていますが(ため息)」(48)
 私「後のことを考えると、気が重くなるようですね」(49)
 A氏「妻になんと言おうか」(50)
 私「なんと言うつもりですか」(51)
 A氏「正直に言わないといけないとは思う」(52)
 私「ここに来たことを隠す必要はないって思うのですね」(53)
 A氏「やましいことは何もしていないはずだ。予約を取って、その時間に伺うだけじゃないか。時間を割いてくれた先生との約束を守っただけではないか。受けるのは私だし、私が選んでいいはずだ。でも、私が選んだ所に妻は反対し、行くな、真っ直ぐ帰ってこいって要求するのは、なんだかおかしい」(54)
 私「なるほど、奥さんが一線を越えて踏み込んできているように感じるのですね。あなたの領域にまでズカズカ入り込んできているような」(55)
 A氏「そうそう、それなんですよ。(顔が輝き、表情が明るくなる)そこまで口出ししてくるかって、そう思うことがあるんですよ」(56)
 私「そう思うんだけど、どうしていいかわからないとか、何もできないという感じとかがあるんですね」(57)
 A氏「後のことを考えるとね。妻が暴れるんじゃないかとか。暴れると本当にひどいんですよ。ヒステリーみたいになって、手に負えないって感じてしまう」(58)
 私「では、こういうことでしょうか。奥さんが暴れると、それを抑えることだけがAさんの心を占めてしまって、暴れることになったきっかけはそのまま放置されるか、ウヤムヤになってしまって、あなたが言いたかったことも言えなくなったり、何が言いたかったのかも分からなくなってしまったりする、そんな状況なのでしょうか」(59)
 A氏「(嬉しそうに)ホント、そうなんですよ。話し合いで解決しようとしても、話し合いがままならない。そうしてなんでもかんでもが宙ぶらりんになるような、そんな感じがします。全然前に進んでいる感じがしないんですよ」(60)
 私「そして、そんなふうに感じている自分が悪いような気持ちがするのではありませんか」(61)
 A氏「(驚く)思いますね。妻の要求が的外れのように思うこともある。でも、そう思うと妻と向き合っていないような気がしてくるんです」(62)
 私「向き合っていないって、どういうこと」(63)
 A氏「きちんと受け止めていないとか、面と面を合わせていないとか」(64)
 私「そういうイメージなんですね、向き合うって。じゃあ、面と面とを合わせていれば、単にその場に留まるだけでも向き合っていることになるのでしょうかね」(65)
 A氏「(笑って)そうはならないですね。その場に留まっているだけでも辛い時がありますよ。妻から逃げたがっている自分を発見してしまうこともあります」(66)
 私「どれだけ好きで一緒になった相手であっても、逃げたいって思う瞬間はあるかもしれませんね」(67)
 A氏「そう思います。妻はそれを認めないでしょうし、許さないでしょうけど」(68)
 私「奥さんが認めていないのですね」(69)
 A氏「禁じているわけではないけど、何て言うのか、捕まえて放してくれないような気持になる」(70)
 私「時には解放されたいとも思うのでしょうね」(71)
 A氏「そうですね。それが辛いって思うこともあります」(72)

 さて、ここで時間が来たので、一旦、この話し合いは終了します。私はA氏にこのカウンセリングの感想を尋ねます。(73)
 A氏「いろんなことが言えたような気がする。DVのことを話し合うんだろうなあと漠然と思い描いて来たけど、なんか、トータルに話し合えたような気がしている」(74)
 私も思ったことなどをA氏に伝えます。これはDVの問題ではなくて、A氏と妻との関係、妻との関係におけるA氏の在り方が問題になっているのであって、それはもっと考えていく価値のある問題であると伝えます。そして、もっと話し合っていきたいと、私は私の要望をA氏に伝えました。A氏は喜んで、それに応じてくれました。(75)
 A氏は承諾して、来週、2回目の面接の予約を取りました。

 この時の私の所見として、いくつか挙げておこうと思います。
 A氏もなんとか話そうと努力したところが窺われるが、多くの部分で曖昧さを残した面接だった。妻が暴れるきっかけ、A氏が手を上げてしまう場面、その他、カウンセリング等に反対していたA氏が受けることを決意した心変わりなどなど、不明点が数多くある。
 こうした不明瞭な点にA氏の抱える苦悩の源泉があるのだと思われる。
 また、A氏には罪悪感がある。妻に手を上げてしまうこと、これはA氏の自己像に反する行為として体験されているのだと思う。A氏はこの自分の行為を受け入れることが難しいし、何よりも困難なのは「加害者」というアイデンティティに同化することが求められているという部分である。妻はそれを求め、その求めに応じないA氏を妻は非難する。罪悪感からA氏はその求めに応じなければならないと感じているようである。しかし、彼の内面の何かがそれに反対している。そうした葛藤にA氏が苦しんでいるようだ。
 今回の面接は、A氏の抱えている罪悪感を軽減することが目指された面接でもあった。それが解消されることが早急の課題である。

 以上、A氏がカウンセリングの予約を取るところから、初回面接終了までを記述してきました。次節より、ここまでの部分の解説をしていくことにします。

(文責:寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)