<5-19>2回目面接:面接(1)

<5-19>A氏の2回目面接:面接(1)

 A氏との初回面接を終え、2回目の予約も入りました。しかし、2回目の面接もスムーズには実現しませんでした。
 2回目面接予定日の数日前にA氏から電話がありました。彼は「ちょっと待ってほしい」と言ってきます。「待つとはどういうことでしょうか」と私は尋ねます。彼は「取りあえず、次回はキャンセルして、2回目は保留にしておいてほしい」と答えます。(1)
 「何か都合が悪くなったのでしょうか」と私が尋ねると、A氏は「ええ、ちょっと」と言葉を濁します。私は取りあえず、それ以上は追及しないで、予約のキャンセルを受理しましたが、一応、もう一週先の同じ時間を空けておく旨をA氏に伝え、それでまた電話をくださいとお願いしました。(2)
 私はA氏からの連絡をずっと待っていました。でも、彼からの連絡は来ませんでした。A氏のための時間を空けておいた前日のこと、私は半ばA氏を諦めてかけていました。ところが、その日の最後に彼から電話がありました。
 それはこういう具合でした。その日の仕事を終え、私が職場を後にしようとしたところで、電話が鳴りました。A氏でした。周囲が賑やかで、どこかお店から電話をしているようでした。彼は「先生、明日、行ってもいいでしょうか」と言います。どことなく思い詰めているような感じが伝わってきました。私はA氏のための時間を空けてあることを伝えます。明日、その時間に必ず伺いますとA氏、私はお待ちしておりますと伝えます。(3)
 こうして、初回面接から二週間後に二回目の面接が実現することになったのですが、当日、再び電話がありました。でも、それはA氏からではなく、A氏の妻からでした。
 A氏の妻は「夫は今日はそちらに行きません。キャンセルしてください。今後も行きません。夫が来たら追い返してください」と一方的に言ってきます。
 私は「それならそれで構いませんので、Aさんご本人から直接電話いただけませんか」と彼女に伝えました。彼女は、怒ったように、ガチャンと激しく電話を切りました。(4)

 A氏、予約時間に来室。A氏はまず、前回からかなり日が空いたことを詫びます。私はそれは構わないと答えます。そして、私は「今日は来られるかどうか心配でした」と伝える。A氏がどうしてですかと尋ねるので、奥さんが電話をしてきたということを私は話しました。A氏はびっくりしました。それはA氏にはまったく初耳だったようです。
 私はちょっと「しまった」と思いました。それならA氏に黙っておいた方が良かったと思ったのですが、もう手遅れでした。A氏は妻が迷惑をかけたと深々と頭を下げて詫びるので、私は「まあ、こういうことには慣れてますよ」と応じました。(5)

 さて、ここからが2回目面接ということになるのですが、できるだけ簡略に、A氏の発言を要約して提示することにします。
 まず、最初の話題は前回からこの日までの間に起きたことでした。
 前回、このカウンセリングから帰宅すると、妻がすごく怒って、約束を破ったとか裏切ったと喚く。妻が喚いたり暴れたりするので、やっぱり手を上げてしまった。妻は、「あなたはこれでもDVじゃないって言うの」と詰め寄る。A氏は「うるさい」と一喝して、部屋に引き下がったということでした。(6)
 翌日、夜、彼が帰宅すると、妻はDVに関する本を何冊か買い込んでいて、「これを読むように」とA氏に言う。「これを読めばあなたのやっていることがDVだってわかるから」と妻は言うのです。(7)
 A氏、手に取ってパラパラとページを繰るが、興味が持てず、何も言わずに、本を置いて部屋に下がったそうです。妻はパニックのようになって、喚いたということですが、A氏はそれに関わらないでおこうとします。私は思わず「それはよくできましたね」と言ってしまったのですが、A氏も改めて、その時は冷静に対処できたということを思い出しました。「どうしてそれができたのでしょう」と私。「さあ、何となく。何も言うことができなかったような、そんな感じでした」とA氏。(8)
 その翌朝、このカウンセリングを止めろと妻はA氏に詰め寄ります。そしてDV加害者更生プログラムに参加してほしいとA氏に頼みます。あなたはそれに参加すると約束したと妻は主張します。(9)
 A氏はそれに一回だけ参加するつもりではいたようです。と言うのは、彼が私のカウンセリングを選び、妻がそれに反対した時に、彼が折れて、どちらも一回受けてみて、その上で良かった方を選ぶと妻に約束してしまっていたからです。彼はその約束は守らなければいけないと思っていたようでした。(10)
 そういうわけで、妻にもプログラムに一度だけ参加すると彼は約束していました。しかし、それが私との2回目の予約日よりも後だったのです。彼が「保留」にしてほしいと述べたのは、このためでした。プログラムに一回も参加していないうちに私との2回目のカウンセリングを受けるのは、フェアではないということでした。これは妻がそう言い張ったそうです。どちらも同じ回数だけ受けてから判断しないと不公平だということです。A氏は、一応、その言い分を受け入れて、それで私のカウンセリングは「保留」となったのでした。(11)
 プログラムに参加したものの、それはA氏にはあまりいいものとは思えなかったようでした。グループワークで、他に「加害者」立場の人たちが参加していて、自分がいかにパートナーにひどいことをしたかを延々と語っていくそうでした。(12)
 その話を伺っていて、私は「そのプログラムで、何が一番嫌でしたか」とA氏に尋ねました。(13)
 彼の話では、男性のインストラクターみたいな人から、「柔道をやっていたAさんが相手からどう見えているか分かりますか。奥さんよりも体も大きく、力もはるかに強い。そんな人から殴られる痛みが分かりますか。Aさんは手加減しているつもりでも、相手の痛みに違いはないのです」などと詰め寄られて、とても嫌な思いをしたそうでした。(14)
 A氏はこのプログラムにはとてもついていけないと感じました。その日、プログラムからの帰宅後、彼は妻に向かって、「こんなプログラムを3時間も受けるより、寺戸先生のカウンセリングを1時間受ける方がよっぽど有意義だ」と伝えました。妻は激怒しました。「今日、参加して、今日のうちに結論を出すなんて、真剣に考えていない証拠だ」と妻は反論してきます。そして、「あなたにはプログラムの方が必要なんだ。私が求めていることにいちいち反対するのはDVだ」と彼女はA氏に訴えます。(15)
 また、DVに関する本を読めと妻に言われるのですが、A氏はどれを読んでも今一つピンと来ないと感じていました。妻に、読んでも分からないと伝えても、「分からないのはあなたに問題意識がないからだ」とか「あなたがDVを認めないから分からないのだ」などと言い返される始末でした。(16)
 A氏の中では、プログラムには参加しないということだけは決まっていました。妻にそれを伝えているけど、それにも関わらず、「今度はプログラム、いつ参加するの」などと妻からしつこく迫られるそうでした。それで、彼は怒って、「プログラムには参加しない」と明言したのでした。妻はそれを聞いて、パニックになり、暴れそうになったのでした。A氏は、この時、妻に手を上げたのでした。(17)
 それでも彼は自分を抑えようとしていたと言います。その場にいれば、二発目の拳を出してしまいそうなので、彼は外に出たのでした。そして、飲み屋さんから私のところに電話をかけたという次第なのでした。(18)
 翌朝、つまりこの日ということですが、A氏は妻に「自分は寺戸先生のカウンセリングを続ける」とはっきり宣言したのでした。妻は激怒したけど、「そう決めたものは決めたんだ」と、彼は譲りませんでした。妻は、行くな、カウンセリングを断れ、止めろと訴え続けていたそうです。「それで今日、あんな電話をかけたのだろう」とA氏。(19)

 以上、A氏の2回目面接の前半部分を記述しました。分量が多くなるので、ここで節を改めたいと思います。後半では妻のことを中心に聞いていくことになります。

(文責:寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)