<5-15>初回面接:解説(12)

<5-15>初回面接:解説(12)

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 A氏は妻から逃げたくなると感じる時があるが、妻はそれを認めないだろうと話しました。私は、「奥さんがそれを認めないのですね」と、その認識は妻のものであることを押さえておきました。それは妻が認めないことであって、彼が認めていないことではないのだと、この区別をつけておいたのでした。

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 A氏の応答は、少し訂正を加えるものでした。妻は逃げることを禁じているのではないと彼は話します。おそらくそれは事実でしょう。
 そうではなくて、妻が捕まえて放してくれない感じになると彼は話します。少し、内容を具体化してくれました。

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 時には解放されたいと思うでしょうねと私。もう時間なので、それ以上掘り下げないようにしています。
 彼が話しているのは、逃げたい気持ちになるけどそれができないこと、妻は禁じているわけではないけど放してくれないということでした。つまり、しがみつかれるような気持になるのだと私は思いました。
 ここはもう少し具体化していきたかったのですが、それをしていく時間が残されていませんでした。

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 彼は自分が解放されたい気持ちがあることを認めています。解放されないことが辛いとも述べています。それでいいと思います。「罪」は常に行為に伴うものであって、個人が抱く気持ちにはなんら「罪」はないのです。最後にその辺りのことを伝えられたら良かったと思うのですが、それでも、この面接を通じて、間接的に彼はそれを経験したと私は思っています。
 ここで初回面接終了となりました。

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 私は初回面接時に必ずこれを尋ねるのですが、このカウンセリングの感想を述べてもらうことにします。どんな感想をクライアントが述べても構いません。クライアントにとってそれほど悪い経験になっていなければ、カウンセリングは成功したものと見做しています。

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 A氏がどんな感想を抱いても一向に構わないのですが、ここでA氏はとても重要なことを述べているので、その点だけ押さえておこうと思います。
 彼は、何となくDVのことを話し合うのだろうと予想していました。しかし、終わってみるとトータルに話し合えたという感想を持っています。私はこれは好ましい兆候だと考えています。
 カウンセリングで難航する人、あるいは良くなっていかない人の中には、きわめて問題固執的な傾向が認められるのです。こういう人は、最後の感想でも、「問題がなくならなかった」と訴えますし、「何もならなかった」と述べたりするのです。つまり、この人たちは、問題ということに拘泥しすぎるので、体験や感情が広がっていかないのです。「問題」という一点に自分を縛り付けるのです。
 要するに、そこでは「問題」が「無くなったか、無くならなかったか」だけが見られているわけです。そして、このことは、「問題を必ず見てしまう」という結果になるのです。無くなったかどうかを知るのは、それが存在している時であるからです。それが存在しているのを目にして、それが無くならなかったということが分かるのです。でも、無くなった方は確認のしようがないのです。こうして、この人たちは「問題」ということに過度に縛られることになり、「問題」を今まで以上に見てしまうのです。
 A氏がトータルに話し合えた感じがしたというのは、この話し合いが彼に広がりをもたらしていたことを示しているように思われます。彼は「問題」一点に固執しなかったのです。それと同時に、この広がりは彼の罪悪感が軽減されてきたことによってももたらされたのだと私は考えています。
 罪悪感は個人を圧迫し、個人をある一点に拘束してしまう傾向があると私は考えています。彼が罪悪感に囚われ過ぎていれば、おそらく、この面接は彼に罪があるのかないのかという一点だけに話が絞られてしまったでしょう。

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 私はA氏に継続を勧めました。
 私が継続を勧める時、私はこのクライアントとやっていけそうだと感じているのです。無理だと思われたら、私は継続をお勧めしないのです。無理に引き受けても、あまりいい結果にはならないことを経験的に知っているからです。
 誤解のないように申し上げるのですが、どういう人に勧めて、どういう人には勧めないかというのは、特定のタイプがあるわけではありません。また、問題や病理の重さということにも関係ありませんし、料金の支払いとも関係がありません。裕福な人でも断ることがありますし、料金を割り引いてでも継続してほしいと願うクライアントもあります。
 つまり、私が一緒にやっていけそうだと思える人、見込みのありそうだと思える人だけに継続を勧めています。
もちろん、継続を勧めなかった人たちは、その人たちに何かがあるというわけではなく、私の方にあるのです。その人たちは、私のようなカウンセラーよりも、もっと別のタイプのカウンセラーを探した方がいいという場合もありますし、彼らの望んでいるものが私の限界を超えていると思われる場合もあります。無理に継続を勧めない方が、彼らにとっても良いだろうと考えることもあります。それでも、彼らが継続するというのであれば、私は受け入れるのですが、大抵は、長く続きません。

 以上、A氏の初回面接を解説してきました。初回面接というのは、その人の様々なものが持ち出されるので、特に重要であります。そのため、少し念入りに見ていった次第であります。
 さて、ここで2回目の面接に移ればいいのですが、その前に、この初回面接から取り上げたいテーマを二つほど考察しておきたいと思います。

(文責:寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)