<16-4-9>意識水準の低下(2)

<16-4-9>浮気のケース研究~Q夫妻とR夫妻~意識水準の低下(2)

(きっかけの内面化)
 妻たちは日常生活を不自由なく過ごしています。仕事も家事もこなしています。「発作」は彼女たちの日常生活に突如として割り込んできます。それは一方的に襲い掛かってくるようであり、いかなる抵抗を試みることもできないものとして体験されているように私は思います。
 日常の些細なことがきっかけとなることがあります。テレビで芸能人の浮気報道に接したとか不倫の場面をドラマで見たとか、そういうことでも「発作」を引き起こすきっかけとなるのでした。
 時間の経過とともに、こういうきっかけが無くても「発作」が生じるようになるようです。彼女たちはもはやきっかけ無しで「発作」が起きると感じています。私はそれは「発作」が彼女たちに定着したと見なしております。もはやそれはきっかけ無しに自動的に生じるものになるわけです。
 そうなると彼女たちは予防することができなくなるのです。何をどのように気を付けていたらいいのか、日常生活のどんな場面が要注意なのか、一切の手がかりがなくなってしまうのです。
 それはいつ何時襲ってくるか分からないものとなり、そのために彼女たちは「発作」をさらに恐ろしいものとして、さらに厄介なものとして評価することになるようです。
 ところで、きっかけが無いという時のそのきっかけとは、あくまでも外的なきっかけという意味であります。内的なきっかけというものがあると私は仮定しています。きっかけが無くても生じるのではなく、きっかけが内面化しているように思うのです。ただし、これに関しては妻たちから確かなことは聴くことができないので、あくまでも私の個人的な仮説であります。

(意識水準という概念)
 しかし、きっかけとなるものが不明瞭になるとしても、「発作」が起きる時の条件に関しては言えることがあるように思います。
 ここで「意識水準」なる概念を持ち込みたいと思います。この概念は人格水準と呼ばれることも多いのですが、意識の状態を取り上げたいので「意識水準」と呼ぶことにします。概念の名称よりも、その概念で何を指しているのかを押さえておきましょう。
 勉強でも仕事でも何でもいいのですが、私たちが何か一つの作業に集中しているという場面を思い浮かべましょう。この時、私の意識は遂行中の作業に焦点化されています。つまり、その作業だけに意識が向いていて、その他のことを意識から締め出しています。この状態にある時、私たちの意識は作業に集中しているので、他の観念とか雑念とかが意識に入ってくることがありません。また、私たちは意識をその作業へ方向づけているので、他のことで意識が逸れるということもありません。この状態の時、つまり精神的緊張を高めているような時、これを意識水準が高くなっていると考えましょう。
 集中して作業すると疲労してくるので、私たちは休憩を必要とします。休憩するとは精神的緊張を解き、意識水準を下げているということでありますが、こういう状態の時に作業中には生じなかった観念が入ってくることもよく経験することではないでしょうか。作業中には思い出さなかったことを思い出したりするわけです。帰りに明日の朝食のパンを買っておかないといけなかったなとか、今度の会合の連絡を頼まれていたなとか、作業中には思い出すことのなかったいろいろなことを思い出したりするわけです。
 もっとも意識水準が低下する時とは、睡眠ということになるでしょう。睡眠時にはさらに多くの観念が意識に入り込んできます。要するにそれは夢ということなのですが、意識水準が高い時には決して思いもしなかった観念が夢を通して現れたりするわけです。
 繰り返しになりますが、次の点を押さえておきましょう。
 私たちがもっとも意識水準を高めている時、例えば極度に集中している時などは、不必要な観念や想念が意識に割り込んでくることがないわけです。また、作業に意識を向けているため他のことが割り込んできて意識の方向付けが変わったりしない(転導性が低い)のです。つまり、他のことで意識が妨げられたり流されたりしないということです。
 一方、意識水準が下がっている時、休憩している時とかリラックスしている時などは、さまざまな観念や想念が意識に浮かんできます。また、意識を特定の方向に方向づけているわけではないので、心に浮かんでくる想念なんかで意識が奪われてしまうこともあります。他のことで意識が導かれやすくなっている(転導性が高い)わけです。言い換えるなら、意識水準が低い状態の時は自分自身の舵取りが上手くできなかったりするわけであります。その代わり、インスピレーションなんかが生まれるのもこの状態の時であるので、意識水準の低下状態は必ずしも悪いわけではありません。
 さて、妻たちの「発作」に話を戻すのですが、この「発作」は妻の意識水準が低下している時に生じるようです。

(「発作」と意識水準)
 どういう時に妻たちの「発作」が起きるかを見てみましょう。
 まず、朝、寝起きで生じるということがあります。意識がまだ清明でない状態であります。これはQ夫人にもR夫人にも見られることでした。
 同じく、夕暮れ時や夜に生じることもよくあるようでした。これは疲労ということも関係しているのでしょう。Q夫人もR夫人も職業を持つ女性でした(勤務中は決して「発作」が起きないのです)が、職務から解放された後の時間帯です。
 また、単調な作業をしている時もあります。夕食の準備で食材を切っている時に生じた(R夫人)りということもあります。
 あと、特に何をしているでもない時間に起きることもあります。待合室で待っている時とかバスを待っている時なんかに生じたりもあります。
 ワイドショーで芸能人の不倫報道に接したことが契機で「発作」が起きたという場面でも、テレビでも見てくつろごうとしていたという背景があるかもしれません。要するに、そのきっかけに触れる前に意識水準が下がっていたという可能性もあるということです。
 Q夫人は週の中頃に「発作」が起きやすいと言ってましたが、これもその時期に疲労してしまうのかもしれません。疲労に襲われて、意識水準を高めることが難しくなるのかもしれません。
 体調もまた関係します。生理の時であるとか、身体的な不調が感じられている時とか、そういう状態では意識水準がどうしても高められなかったりする(集中できなかったりする)ので「発作」が起きやすくなるのかもしれません。
 家族でどこかへ行くという場合では、行きよりも帰りで「発作」が起きやすいようであります。往路は予定がある、つまりあそこへ行ってあれを見て、次にあそこへ行ってあれを買ってといった計画があるので、ある程度の高さで意識水準が維持されているのでしょう。復路は家に帰るだけなので意識水準を高める必要もなくなるのです。
 意識水準がある程度高い時には「発作」は起きず、それが低下した時に「発作」が起きやすいようです。ただし、どの程度の高さがあればいいのかとか、どのくらい低下すると危ないのかといったことは一概には言えません。個人差もあると思いますので、そのような基準を設けることはできないと考えています。
 意識水準が下がっているので、さまざまな想念や感情が容易に意識に上がってくるのでしょう。そういう時に「発作」が発生する一つの条件が成立するようであります。 

(文責:寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)