<16-3-6>P夫人のケース(6)

<16-3-6>浮気のケース研究~P夫人のケース(6)

(浮気の証拠にケリをつける)
 P夫人は夫の車にレコーダーを仕掛けておいて、それで愛人とのやりとりを録音しました。次のカウンセリングで彼女はその仔細を話してくれるのですが、これを記述するのは私としては気が重くなる作業であります。
 それは、何と言いましょうか、恋人同士の会話を盗み聞きしたかのような後ろめたさも伴っているのですが、聞いていて非常に恥ずかしい感じもありました。同じことはP夫人も感じていらっしゃったようで、彼女曰く、「まるでロミオとジュリエット」ということでした。私も同感であります。
 多分、その時の彼らはロマンチックな雰囲気に満たされていたのでしょうけれど、距離をおいて眺めるとなんとも気恥ずかしいものであります。夫はまるで家のしがらみに縛りつけられた自由のない貴公子みたいで、愛人の方は悲恋に苛まれる悲劇のヒロインみたいでありました。
 この愛人女性という人も、P夫人の検索したところによれば、コスプレなんかが好きだということで、いろんなコスプレをしてはブログだかフェイスブックだか何かに公開するのだそうです。変身してはそれになりきるタイプの女性なのかもしれません。
 私の勝手な憶測ですが、有能な助手という役割にこの女性なら速やかに同一化できるかもしれません。また、ロマンチックなムードに満たされれば、そのムードに一致した自分になりきることができるのかもしれません。
 しかし、P氏の方にも同じような傾向があるかもしれません。彼は内的外的な影響に流されやすいようであると私は感じています。転導性が高いという表現で先述しましたが、そうであるとすれば、P氏と愛人とはけっこう似た者同士と言えるのかもしれません。
 さて、彼らは夜のドライブをしています。車内で、星空を見上げながら、彼らは話し合います。その中で、妻と別れて愛人と一緒になることの計画をかなり念入りに話し合っています。
 もちろん、夫であるP氏がどこまで本音でこれを言っているのかは定かではありません。その場の雰囲気に流されてそういう話をしているのかもしれません。私としてはもうそこは不問にしておこうと思いました。そして、これを浮気の証拠として、P夫人の証拠探索を終わらせようと考えました。これ以上、P夫人に証拠探索に時間とエネルギーを費やさせるのは止めさせようという気持ちでした。
 それに、P氏の本音がどうであろうと、このドライブデートの中身を見れば、誰が見てもこれは浮気だと評価することでしょう。P氏は確かに愛人と浮気をしていると決定してよさそうであります。

(突然の終結へ)
 こうして夫の浮気が発覚しました。これによって今後はP夫人のことをもっと話し合えるようになるかと私は期待していました。
 まず、夫との今後の関係をどうするか、隠れて浮気されていたことに対する傷つきにどう対処していくか、さらにはこの3年近くの夫婦生活をどのように意味づけていって、どのように人生に位置付けていくか、さらに贅沢を言えば、結婚すること、夫婦になること、家庭を築くことに関して、今まで以上に真剣に考える機会になってほしいと私は願っていました。
 ところが、次のカウンセリングで、彼女は夫と別れる決心をしたと言います。そして、夫と別れてしまうので、もうカウンセリングは必要ない、だから今回で最後にしますと言われたのでした。これから彼女のカウンセリングが始まると意気込んでいただけに、私は出鼻をくじかれたような思いがしました。
 彼女が終わりにしますというのを無理矢理引き留めるわけにもいかないので、私は彼女の意思を尊重して、その回を最終とすることに同意しました。
 私は不安に思っていたのですが、夫の浮気の事実を知ってしまうということは妻にとって相当なショックではないでしょうか。そうだとすると、P夫人はかなりダメージを受けただろうと思いきや、そうでもなかったようです。
 彼女の言うところでは、うすうす勘づいていたことだし、証拠探しをやっている間に夫に対する関心とか興味が薄れ、言わば心的に距離が広がっていたようであります。結果的に証拠を持ってきてほしいという私の要望が彼女を救った部分もあったようで、いきなりその事実を突きつけられたら参っていただろうと彼女は言います。夫の浮気を受け入れる時間がそこで確保されたということであります。
 夫の浮気の現場を押さえた時も、夫に対して呆れるような気持しか起きなかったと彼女は言います。悲しいとか傷ついたとか、そういった感情を彼女は経験しなかったようであります。むしろ現実の夫が見えたということで安心し、彼女の決心が定まったようでありました。
 私としてはあまりお役に立たなかったように思うと伝えると、彼女はそんなことはないと言います。ここへ来るのが楽しかったと彼女は回想して述べます。確かにそうでありました。彼女は一度たりとも辛そうな顔をしたことがありませんでした。楽しそうでさえあったと言える場面もいくつかありました。これに関しては後でもう一度取り上げたいと思います。

(夫婦以前)
 一応、浮気テーマのページなので、P氏の浮気に関して述べておきましょう。P氏がなぜ浮気をしたのかと問う前に、P氏とP夫人は果たして本当に夫婦であっただろうかと問う方が的確であるように私は思います。
 彼らの結婚は、それぞれ自分の事情に基づいています。単純化して言えば、P氏は母親のためであり、P夫人は体裁のためであります。彼らにとっては、「結婚していること」が一番重要なことであり、その人と結婚することにあまり意味がなかったように私は感じています。お互いに相手を選んだのも、それぞれ自分の都合に合うからであると、そう見なせる部分も少なくないように私は思っています。
 これは浮気問題に関する私の基本的見解でありますが、夫婦に浮気問題が発生するのではなく、夫婦になれていない夫婦において浮気問題が発生するものであります。私はそのように考えていますので、浮気問題は、その問題を考える前に、当事者たちが本当の夫婦になることの方が大事であります。
 浮気をされた妻から訊かれることが私にはあります。「私という妻がいるのにどうして夫は他の女性に走るのか」と。私は「どうしてでしょうねぇ」と言葉を濁すのですが、ホンネではこう言いたいのであります。「それはあなたが妻になっていないからです」と。これは夫の問題でもあれば妻の側の問題であることもあります。いずれにしても、真の夫婦になることができていないので浮気問題というものが起きてしまうのだと私は考えています。
 P夫妻は、夫も妻も、真の夫婦にはなっていなかったと私は考えています。浮気が発生するのは、妻が妻になっていなからであり、夫もまた夫になっていないからであると、そのように言えると思います。

(文責:寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)