<16-3-1>P夫人のケース(1)

<16-3-1>浮気のケース研究~P夫妻の例(1)

 ここからは浮気問題に関して個々のケースに即して述べることにします。最初にある夫婦を取り上げます。呼称は何でもいいのですが、ここではP夫妻としておきましょう。
 カウンセリングを受けに来たのは妻の方でした。当時、彼女は20代後半でした。可愛らしい感じの人でしたが、悪く言えば、実年齢よりも幼い印象を受けたのを覚えています。
 さて、P夫人が私を選んだ理由が少し変わっているので、本題に入る前にそれを取り上げましょう。

(決断の回避:主体の弱化)
 P夫人は夫の浮気のことで気に病んでいました。それでカウンセリングを受けに来たということでしたが、当時、私は特に浮気問題に取り組んでいたわけでもなかったので、どうして彼女が私を選んだのか、私には興味がありました。
 初回面接時に私はそのことを尋ねたのでした。なぜ、夫婦カウンセリングをしている機関や結婚カウンセラーを選ばずに、私のようなカウンセラーを選んだのでしょうかと彼女に質問したのでした。それに対する彼女の答えは「方角が良かったから」ということでした。
 方角で決めたのはいいとしても、方角だけで決められた方(つまり私)は少しガッカリする気分でした。それはともかくとして、彼女の言うところに耳を傾けてみましょう。
 彼女は、いわゆる風水に凝っているのでした。部屋の配置であるとか、所持品のカラーとかも風水を参考にするということでした。彼女がカウンセリングを受ける決意をした時、どういうわけか西(方角は何でもいいので西にしておきましょう)に運気があるということでした。それで、彼女の住居から西方向でやっているカウンセラーを探そうということになり、幸か不幸か、西方向に私のところがあって、そうして彼女は私の所に決めたと言うのでした。
 百歩譲ってそれはいいとしましょう。私のところを良さそうだなとか、このカウンセラーに聞いてほしいとか、そういう気持ちはなかったのかということもこちらは質問してみると、彼女は、私のところも、私のこともよく分からないという御返事でした。
 笑い話のようでありますが、私は一抹の不安を覚えます。
 まず、彼女のその話の何がおかしいのかということを明確にしておきましょう。それは彼女の決断と占いの関係に認めることができます。
 私は占い関係のことはまったく分かりません。星座占いを見る時も、私は蠍座なので蟹座を見るというヘンコ者でありまして、健康な人が占いに対してどういう態度をとるものなのかさっぱり分かっていません。
 おそらく、精神的に健康な人であれば、占いは自分の決断を補助するものという認識を持っているのではないかと私は思っています。つまり、自分の受けたいところが西方向にある、そういえば西方向に運気があるということだったな、じゃあここに決めるかなどといったことになるのではないかと思います。あるいは、自分が受けたいと思うところが東方向にあるとすれば、そこを受けることにするけれど、運気が東方向に変わるまで待つかとか、そういったことになるのではないかと思います。
 決断の主体はその人にあり、占いはその決断に奉仕したり補助したりするものではないかと思います。それが精神的に健康な人の占いの活用であると、私の個人的な考えですが、私はそう考えています。
 彼女はそれが逆転しているようであります。彼女が占いに奉仕し、占いの補助をしているようなものであります。そして、こういう現象は一体何かということが問題になります。
 彼女が占いに凝るのはいいとしても、それは彼女の決断の回避ということに役立ってしまっているのです。彼女は自分に関する決断を回避し、それをすべて占いなどに委ねるのです。つまり、決断する主体が弱いとか曖昧になっていると思われるのです。他の場面でも彼女のその傾向が見え隠れするのですが、その傾向がいささか厄介な問題を持ち込んでしまうこともありました。

(P氏に関して)
 次に、夫という人について大雑把ながら述べておきます。私は夫であるP氏とは会ったことがないので、すべてP夫人から得た話に基づいて構成しています。
 P氏の家庭は父親の存在感が大きかったようです。父親が厳格であるとか、そういうわけでもなく、激しい気性を持っているとかいうわけでもありませんでしたが、昔気質の父親のようで、一家の大黒柱として毅然としているという感じの人のようでありました。
 母親は性格的には大人しい人であるようです。病弱でもあり、そのためか父親には従順な人であったようです。
 他にP氏には兄がいます。この兄はすでに結婚していて独り立ちしていました。兄弟仲は悪いわけではないようでした。よくある構図でありますが、父親は長男に期待をかけていたようであり、母親は弟であるP氏をかわいがってきたようでした。
 兄はしっかり者と評価されてきたところがあり、一方、弟であるP氏は甘えん坊とみられてきたところがあるようでした。母親との関係が密であったためか(決して子育てが間違っていたとかいう意味ではありません)、P氏にはどこか性格的に弱いようなところがありました。
 一例を挙げると、彼の職歴にもその傾向を見て取ることができるように思います。彼はどこかに就職しても1,2年しか続かず、30代前半までにいくつもの職場を転々としてきた経歴がありました。彼に関しては、彼は一つのことが長く続かないという印象を私は持っていました。苦しくなるとそこを辞め、いわばリセットして新規まき直しを測るのだけれど、次の所でもまた苦しくなっては辞め、新たにリセットして心機一転する、P氏はそういうことを繰り返したきたような感じを私は受けていました。

(クライアントであるP夫人について)
 夫の方はともかくとして、クライアントであるP夫人の方はと言いますと、あいにく、彼女に関することはあまり分かっていないのです。浮気問題であれ、DV問題であれ、そういうことがよく起るのです。自分のことは話せず、相手のことを話すのです。
 なぜ相手の話に終始するのでしょうか。相手に問題があると見做している場合には特にそういうことが起きるのですが、むしろ自分自身に向き合えないことの表れであることが多いように私は思います。それが自分の問題であるように思えないとか、自分では手に負えないほど大きな問題に直面しなければならなくなるのを回避したいとか、そういった気持ちが生じるのだと私は思います。
 ただ、相手の話しかしないからと言って、彼女が他罰的であるとか、責任転嫁しているとか、決めつけることはできないので、そこは注意したいと思います。。
 結婚に関しては、彼女はあまり明確な観念を持っていなかったように思います。結婚したい願望はあったようでしたが、どんな夫婦生活を送りたいとか、結婚してどんな人生を送りたいとか、そういうことに関しての明確なヴィジョンは乏しかったかもしれません。
 結婚のために動き始めたのは、彼女がいわゆる「適齢期」に差し掛かったからというのが実情のようです。結婚はしたいものの、結婚したいと思う人はいなかったようでした。周囲の友達や同僚が結婚していくのを見て、漠然とした気持ちのようでしたが、「そろそろ自分も結婚しないと」と思い始めたようでした。
 P氏と出会う前に他の男性と交際していたかどうかは不明です。それどころか彼女の恋愛歴は一切分からず終いでした。
 P氏とは、いわゆる婚活パーティーみたいな場所で知り合ったそうであります。お互いに結婚への動機づけが高かった時期だったので、交際を始めるとトントン拍子で結婚まで話が進んでいったそうでした。
 結婚に関して、P氏は一つの条件を出しました。それは結婚後は彼の実家近くに住むという条件でした。彼女は通勤可能圏内であればオーケーだということで、彼の条件を承諾しました。こうして結婚が決まっていったのでした。
 速やかに結婚がまとまって当人たちも周囲の人たちも安堵したことでしょう。私から見ると非常に問題の多い結婚であるように見えるのです。相手があっての結婚であるはずなのに、これでは結婚あっての相手ということになってしまうのです。
 その点に関しては後に取り上げることになりますが、分量が多くなるので次項に引き継ぐことにします。

(文責:寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)