<15-1A>緒言(1)

<15-1A> 被虐待児のその後~緒言(1)

(テーマの限定)
 本章は「被虐待児のその後」というタイトルを付けました。そのタイトルが示すように虐待問題を本章では取り扱うことになります。ただし、虐待問題の全般を考察するのではなく、その中のごく限られた一部分だけを取り上げることになります。
 虐待問題は、虐待する側と虐待を受ける側とで成り立ちます。虐待する側のことは本章ではほとんど取り上げられることはないでしょう。これは本章のテーマから外れるだけでなく、私が現実に虐待する側とお会いすることがないからであります。
 本章で対象となるのは虐待を受けた側になります。それも過去に虐待を受けていたという人であり、現在虐待を受けているという人は対象外になります。
 さらに、過去に虐待を受けていただけでなく、その虐待状況や虐待者との関係から抜け出たという人、あるいは抜け出ようとしているという人を対象にします。

(言葉について)
 記述を簡略化するために、双方の役割を「虐待者」と「被虐待者」と表記することにします。「虐待者」とは、虐待をする側を指します。その虐待が過去のことであろうと現在のことであろうと関係なく、ある場面において虐待をする側の人は等しく「虐待者」と表記します。
 虐待を受ける側は「被虐待者」で統一することにします。これは特定の場面で虐待を受ける立場にある人を指します。
 DVなどの問題でも同様なのですが、「虐待者」とか「被虐待者」といった言葉は、問題となる場面における双方の役割とか立場を単に示しているだけであって、人格的な意味合いを含むものではないという点は強調しておくことにします。
 つまり、ある場面において、暴力を振るう側は等しく「虐待者」と表記するものの、この「虐待者」という言葉はその人のアイデンティティを示すものではないし、その人の個性とかパーソナリティとかいった事柄とは無縁の言葉である、というわけであります。「被虐待者」という言葉も同様であります。
 虐待状況ならびに虐待関係から抜け出た人は、その過酷な状況を生き延びたという意味で「サバイバー」と表記します。従って、本章はサバイバーに関する事柄を扱うことになるわけであります。

(閲覧上の注意)
 本章は虐待を受けた人たちのうち、サバイバーだけを取り上げることになります。しかし、一言だけ注意を喚起しておきたいのですが、本章の記述はかなり厳しい内容になる可能性が高いのです。その点はご了承いただきたく思います。その上で、以後の記述を読むかどうかはご自身の判断で、自己責任でお願いしたく存じます。
 なぜ厳しい内容になるかと言いますと、彼らはまず「治療」困難な例が多いからであります。この困難に関しては後に述べていくことになりますので、ここでは詳述しないでおきますが、「治療」的な働きかけは、彼らには「暴力」として体験されることも稀ではないからであります。
 おそらく、本章の記述も読み手によっては「暴力」と映ずるかもしれません。だからお断りしておきたく思うのですが、私は読み手に対して暴力的な感情や意図でもってこれを書いているわけではないのであります。その点はご理解していただけるとありがたく思います。

(対象クライアント)
 虐待状況からのサバイバーたちを本章では取り上げます。サバイバーとは虐待状況や虐待者との関係などから抜け出た人を指していますが、そこから抜け出ようとしている人、その途上にあるという人も含めることにします。
 彼らは虐待状況から抜け出し、もはや虐待のない生活を送り始めるのですが、8年とか10年後(当然、この期間には意味がありますし、また、個人差もあります)になんらかの「症状」なり「問題」なりを発現させるのです。
 この現在の「症状」が過去の虐待問題と何らかの形で関連しているのです。これは当人がそのように意識しているというだけでなく、第三者が見てもその関連性が首肯できるのです。そういう例を対象にします。
 また、この虐待の存在が確かであるという例に限定することにします。虐待の存在が曖昧であるとか、はっきりした確証が得られないといったケースは除外することにします。確証が得られないというのは、虐待の可能性がこちらには感じられていても、クライアント本人がそれを打ち明けなかったり、あるいは記憶が曖昧であるために明確に言語化できないといった要因のためであります。
 さらに、その虐待が身体的なものであるということも条件にしております。言語的虐待、あるいはネグレクトなどは、当然これらも虐待行為に含まれるのですが、形が無いだけにどうしても曖昧な報告になりやすく、考察していく上で具体性を欠いてしまうようになると思います。そのために身体的虐待を一つの条件にしています。言語的あるいは精神的な虐待に関しては、それがかなり明確である例のみを取り上げることにします。
 このようにして対象が限定されると、私の自験例にて上記の条件を満たすクライアントが7名抽出されました。この7人はクライアントAからクライアントGとして表記することにします。7人のプロフィールに関しては次節で取り上げます。

(サンプルの偏り)
 本章では、私の自験例における7名のクライアントに基づいて考察していくことにします。この7人以外の人たち、上記の理由で除外した人たちの経験も随時参照し、対象クライアントのプロフィールなどに取り入れたりもします。それでも、あくまでもこの7人のクライアントに焦点を絞ります。
 従って、他のテーマと同様に、ここには「サンプルの偏り」という現象が生じます。それはどうしても避けられないことであります。
 偏ったサンプルに基づいて考察していくので、ここでの考察を一般化するわけにはいかないという点は押さえておきたいと思います。

(文責:寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)





2019年9月6日公開