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2021年1月18日 月曜日

1月18日:ミステリバカにクスリなし~『折芦』

1月18日(月):ミステリバカにクスリなし~『折芦』(木々高太郎全集第2巻)

 木々高太郎の全集第2巻より、『折芦』を読む。本書にはその他に14本の短編が収録されている。昭和9年に文壇デビューした著者の昭和12年頃の作品が収められている。
 昭和10年頃というと、江戸川乱歩が大衆化していた時期である。一部のマニアックな愛好家しか振り向かなかった探偵小説が大衆の手に渡り始めた時期である。その中で、木々高太郎は探偵小説は立派な文学であるとして、その芸術性を擁護した。木々のその主張は直木賞を受賞した『人生の阿呆』で結実することになる。本編も高い文学性を持った推理小説を目指して書かれたものである。

 本長編小説では、探偵役にお馴染みの大心池博士(作中、その名前だけは登場する)ではなく、東儀という単独の主人公を置く。最後まで読むとその意図が分かるのだけれど、要は、この東儀の推理が不完全であるためである。シリーズキャラクターを使用するわけにはいかなかったのだろう。そして、主人公の推理が不完全であるということが、本作では重要なカギとなるわけだ。
 東儀という人物は、学校を出てからも定職に就かず、親元で思索に耽りながら生活しているという羨ましい身分である。過去に警察の手掛ける事件に知恵を貸してやったことか志賀博士とも懇意になる。その志賀博士の紹介で、東儀は一人の女性と会うことになった。物語はここから始まる。
 女は福山みち子と言う。実業家の福山氏に嫁いだのだが、夫は二度目の結婚だった。前妻はすでに死んでいた。2年前、密室状況で夫の父親が絞殺され、その現場にいた前妻も負傷を負い、後に息絶えたのだ。前妻との間に心臓を患っている娘が生まれている。この事件にはまだ謎が残されているとみち子は言う。みち子は従姉妹の永瀬節子にも相談していると言う。
 節子、この名前は東儀の記憶を揺さぶる。彼がかつて関係をもった女だった。東儀は何かの予感を感じるが、この予感は的中することになった。永瀬家の若主人、つまり、節子の夫が絞殺されたのである。探偵事務所を開いたばかりの東儀は、友人の岡田警部の助力もあり、捜査に協力することになる。

 事件現場では、東儀はシャーロック・ホームズばりに証拠を集めていく。次から次へと証拠が挙がるくだりは面白い。特に、刀剣についた指紋についての推理はなかなか興味深く読んだ。
 容疑者のアリバイを崩していく場面も面白い。特に、電気時計のトリックは時代を感じさせる。1920年代では可能であっても、現在では逆に不可能である。
 容疑者を絞って、ついに真犯人を指摘する。そこで事件が解決ということになる。ところが、後日、その推理が間違っていると報告される。犯人が無実を訴えているのであり、再調査を東儀に依頼したのだ。この犯人と目されていた人物は、確かに犯罪を犯そうとして準備やお膳立てをしてきたが、実行したのは別人であると言う。
 ここで探偵の再調査が始まるのかと思いきや、この事件は関係者の手記によって解明されるという結末を迎える。呆気ない結末である。幾分、尻切れトンボの観がないでもない。本作でそこだけが不満の残る個所である。

 さて、謎解き、推理小説としての興味を惹きつけながら、東儀が人生を開始するところ、妻である嘉子との確執、さらに以前の女であった節子との記憶など、探偵も一人の人間として苦悩する姿が描かれる。人生に乗り出した東儀だが、彼は人生に挫折してしまうのである。しかし、ただ挫折するのではなく、再出発の予感を記すことで、希望を感じさせるような結末になっているのは感動的でさえあった。
 タイトルの「折芦」の意味が最後に腑に落ちるように仕組んである。これはパスカルの言葉、「人間は一本の芦であるが、考える芦である」という言葉に基づいている。この芦が折れてしまうわけだ。芦が折れて、折芦となって、そこで初めて人生を始め、人生を考えるようになった主人公を象徴しているのだ。同じく、それは妻の嘉子をも象徴しているのである。

 本編は、内容は決して悪くはない。面白いことは面白いし、トリックなんかにも工夫が凝らしてあるし、ドンデン返しも用意されている。しかし、文学的であろうとしすぎて、推理小説面が弱くなったところがあるように思う。どうもバランスが悪い感じがしてならない。著者の『人生の阿呆』と比較してしまうからであろうか、どうも見劣りがしてならない。
 結果、僕の唯我独断的読書評価は三ツ星だ。星四つをつけたいところなんだけれど、少し減点。文学性は評価するけど、ミステリとしては後味が悪い。やはり、主人公の探偵が最後まで事件を解決してほしかったという気持ちが残る。

<テキスト>
『木々高太郎全集2巻』(朝日新聞社)より

(寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)



投稿者 高槻カウンセリングセンター

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