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2018年10月 7日 日曜日

10月7日:唯我独断的読書評~『アーサー・マッケン作品集成Ⅲ』

10月7日(日):唯我独断的読書評~『アーサー・マッケン作品集成Ⅲ』(平井呈一訳 牧神社)

『怪奇クラブ』で魅了されて以来、アーサー・マッケンは僕を惹きつける作家の一人になった。イギリスのホラー作家という位置づけをされるマッケンだけど、不思議な雰囲気に満ちた作品を書く人であるように僕は感じている。
 本書には、長編『恐怖』、短編集『弓兵・戦争伝説』、単独の短編「大いなる来復」が収録されている。1914年~17年の時期の作品である。

『恐怖』(The Terror 1917)
 長引く戦況の中、記事は検閲され、人々は自分の周りで起きていることを正確に知らされなくなった状況で、空軍の航空機が鳩の大群に突っ込んで墜落するという事故が起きる。続いて、軍需工場の爆発事故が発生するが、これらは一連の恐怖の幕開けに過ぎなかった。
 同じころ、取材のために訪れたメリオンという田舎町で、記者の「わたし」は一連の事件に遭遇することになった。発端は、一人の少女の死だった。その後も、沼地に落ちた男の死体、一家惨殺事件、船の転覆、幼い子供の死など、怪死事件が多発する。
 姿なき殺人者による殺人事件に、人々は恐怖に怯える。敵国ドイツのスパイや新兵器による虐殺だと噂するものもあれば、レムナント氏の主張する「Z光線」など、さまざまな憶測が飛び交う中で、ルイス医師は自宅の庭に不思議な木を発見する。今までそこになかったところに木が生え、光を放ち、そして再びそれは姿を消すのだった。
 被害者は死を目前にして何を見たのか。最後の事件となったグリフィス一家の事件で、ルイス医師は死を覚悟した被害者の手記を手に入れる。そこで、これまでの被害者が黙して語らなかったことが明らかにされる。

 なかなか面白かった。
 次から次へと事件が起きる。それが散漫な印象を与え、物語に停滞感をもたらしているように感じられて、ちょっとばかり取っ付きにくい感じがあった。最初に語られる航空機事故も、それが後の物語にどう関連してくるのかは、最後まで読まないと分からないというじれったさもあった。でも、事件のうちのいくつかは、謎解きの手がかりとなっているし、最後まで読むと、そういうことだったのかと、事件の全貌が見えてくるようになる。
 人間は戦争をし、自然を破壊する。だから自然が人間に復讐するのだ。それが本作に込められた主張であるように感じた。
 唯我独断的評価は4つ星

『弓兵・戦争伝説』(The Bowmen and other Legends of War)
 本作は6つの小品からなる短編集である。一度読んだだけでは印象に残らないほどの小品であるが、第一次世界大戦のさなかにあるイギリスで本作は広く受けたらしいので、当時のイギリス人には訴えるものがあったのだろう。以下、6篇を簡単に記録しておこう。

「弓兵」
 ドイツ軍の大群を目前にして絶体絶命のイギリス軍の一歩兵が、かつて自然食レストランの食器に書かれた聖ジョージの祈祷文を思い出し、唱えたところ、ドイツ軍の背後から弓兵部隊が現れる。

「兵隊の宿」
 戦争に巻き込まれた一兵士。一命を取り留め、意識が回復したところ、この村の長老に自分の経験を話す。長老はそんな兵士に一杯のワインを差し出すが、それを飲むと、兵士の悲しみはすべて吹っ飛んでしまった。

「聖体顕示台」
 戦況が芳しくない中、ドイツ軍のハインツ曹長が「神の栄光よ」と叫んで死んだ。ハインツ曹長の所持品から彼の日記が発見されたが、そこには彼が幻覚に悩まされるまでのいきさつが綴られてあった。

「眩しい光」
 デラミア・スミスは、かつて中世の騎士や弓兵たちの行進を幻覚で見た。戦争がはじまり、連絡将校としてフランスにいたが、そこでかつてみた幻覚を再び見る。昔の兵隊はフランス軍であった。

「小さな民族」
 デュトイト博士は自分の庭の地ならしを頼んだが、見ると、庭はでこぼこになっている。猫の仕業かと思ったが、博士はそこで小さな人間が戦争をしているのを見る。地上の戦争が天界の戦争の反映であれば、戦争はどんな微生物の間にも生まれるだろう。

「トロイから来た兵隊」
 負傷兵が牧師に戦争の模様を語っている。兵士の話にはところどころにおかしな内容が飛び出してくる。牧師はこの兵士が見たものが何であるのか、確かめようとするが、そこで物語は終わる。兵士が見たのは現代の戦争ではなく、トロイ戦争であったということなのだろう。

 以上の6篇であるが、読んでみると、どうして戦時中のイギリスでこの短編集がウケたのか、なんとなく分かる気がする。危機一髪のところでイギリス軍が助かる話はイギリス人の願望を満たすだろうし、現代の戦争も過去の戦争と通じるということでこの戦争の意味づけを助けてくれるのだろう。しかし、現実と非現実の境を越え、時代を超え、聖なるものや大いなるものに触れ、登場人物たちの経験は魅力的であると僕は感じた。


「大いなる来復」(The Great Return)
 ウエールズのサントリアントという町で一連の不思議な出来事が発生した。漁師たちは不思議な光を見、香を焚くことのない教会で香の匂いが充満し、聾者の耳が突然聞こえるようになり、ケンカしていた二人がいきなり仲直りし且つ祝福され、余命わずかの少女が回復する。興味を覚えた「わたし」は現地に調査しに行くが、やがて見えてきたものは。
 最初にいくつもの枝葉を提示して、その枝葉が結合している幹の部分が後に示され、最後に全体像が見えてくるという構造は「恐怖」と通じるものがある。ここでは聖杯伝説が取り上げられている。この聖杯伝説は三人の聖者による奇跡物語として綴られている。この数々の奇跡の出来事は、時に恐ろしく、時に感動的に語られる。こうした伝説を追放している現代に対しての警鐘とも読むことができた。なかなか面白い一作だった。



<テキスト>
『アーサー・マッケン作品集成Ⅲ』(平井呈一 訳)牧神社


(寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)



投稿者 高槻カウンセリングセンター

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