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2018年9月18日 火曜日

9月18日:ミステリバカにクスリなし(22)『旅と推理小説(38年5月号)』(1)

9月18日(火):ミステリバカにクスリなし(22)~『旅と推理小説(昭和38年5月号』(1)

 「旅と推理小説」は副題に「エロチック・ミステリー」とあるように、半分エロである。文芸雑誌には珍しいB5サイズで、4段から5段組のページ構成となっている。短編小説が10篇近く、その他の読み物も充実しており、ページを埋め尽くすような小さいコラム等まで、紙面をまったく無駄にしない作りが好きだ(その代わりゴチャゴチャの観はぬぐえないけど)。
 今回読んだのは昭和38年5月号である。早速、短編の方から読んでいこう。

「靴のヒモ」(島久平)
 元プロ野球投手の立花は、引退して社会人野球チームの監督をしている。立花の所属したチームでは優勝経験がなく、この野球チームも過去二回、優勝を逃している。囲っている女からは軽く見られ、今年、優勝できなければ野球部を解散させると専務に言われ、進退窮まった立花の起死回生の逆転とは。
 靴のヒモが象徴的に立花の在り方を表している上に、ヒモというのがもう一つ象徴的だ。それにしても、野球投手が犯罪を犯すと、やはり、こういう形になるのかと、妙に納得してしまった。

「山刀(ウメアイ)まつり」(細島善美)
 鳴子が三つ鳴ったら逢瀬の合図。山窩(さんか)のお紺と団八は人知れず逢引する。二人の結婚のために邪魔になる風太郎とお俊を殺す相談をしている。風太郎はすでにお紺によって谷底に突き落とされた。残るはお俊である。団八は今度のウメアイ祭りでお俊を殺すことを確約する。
 山窩と呼ばれる人たちがいた。山で生活する人たちで、独自の文化を持ち、山から山へと渡り歩いて集団生活する人たちである。この山窩を舞台にした一連の短編小説を著者は書いている。困ったことに、僕はこれを、推理小説的興味よりも、文化人類学的興味で読んでしまう。不思議な人たちが描かれているなと思ってしまう。

「二人の未亡人」(横溝正史)
 14歳になる敬太郎の母親の座を巡って、二人の未亡人が争う。一人は作家であり、一人は歌手である。なぜ、敬太郎の母親の座をこの二人の未亡人は熾烈に奪い合うのか、その理由は彼の父親にある。父親の賢雄は犯罪者であり、その獄中記が話題を呼び、今や時の人となっていたからであった。
 貪欲な女たちを描いている。著者特有の謎解きはなく、むしろ戦前の諸作品を髣髴させる一作だった。ラストのオチはなかなか壮絶かも。

「白梅紅梅」(山手樹一郎)
 赤穂浪士の残党たち、中でも15歳の大石主税(ちから)を主役に据えて、彼らの切腹までの数ヶ月を描く。自決の日を静かに待ち、人間らしい人情で交流する人たちの姿が感動的だ。加えて、一度助けられたことを契機にして、終生、主税に思い焦がれる久の苦慮と死が、静かな筆致で描かれる。なかなか印象深い作品だった。もっとも、ミステリではなく、普通の時代小説であるが、今号では僕の一番好きな短編となった。

「青い鳥」(加納一郎)
 クラブで働くホステスの悦子は、馴染み客の風間から結婚を申し込まれる。青い鳥が彼女に訪れたかに思われたが、それを妨害するものがあった。同棲している元山がそれだった。乱暴者で、前科持ちで、どこまでも悦子に執着する元山を始末しなければ、幸せな結婚はないと悟った悦子は、元山殺害計画を目論む。
 この手のパターンは、どこかで完全犯罪が崩れるのが定番である。どこで、何によって計画が崩れるのかが見所になるのだが、ここでは犯罪は成功してしまう。それも悦子の計画とは違った形で成功してしまう。ただし、青い鳥は訪れず、高い代償と引き換えの成功となった。

「脅迫者」(黒木曜之助)
「すぐに部長になってみせるぞ」。強引な手腕で課長の座を手にした花田は、毎朝の通勤ラッシュを経てそう決意する。だが、数日前から匿名の手紙が彼に送られてくるようになった。最初、それは「あと一週間です」とあり、次の日は「6」、その次の日には「5」と書かれた紙片が封入されていた。最後の日には何が起きるのか、自分がどうなるのか、不安と焦燥に駆られた花田は行動を開始する。
 主人公は、後ろめたい過去を有するが故に、「あと一週間です」という中立の文章を脅迫と受け取ったのだ。罪悪感が投影されているということである。彼はこの罪を消去する代わりに、この罪に関係している人間を消去してしまう。オチは、途中で予測がついて、しかもそれが的中した。そういうことなんだろうなと思っていた通りであった。

「坂」(新羽精之)
 長崎県の名物、石畳の坂道。その一つであるセミヨノフ坂道下で殺人事件が発生した。鉄棒で串刺しにされた男の死体が発見された。被害者の身元から、容疑は坂上の酒店が浮上する。被害者の尾根は、事件当夜、友人たちとマージャンをして過ごしていたことが判明した。容疑者は絞られ、事件は速やかに解決するかに思われたが、佐海(さみ)警部補にはどこか腑に落ちないところが感じられた。
 この坂道というところがポイントで、警部補は子供たちの遊ぶ姿から事件を解決に導く。著者の手による写真も掲載されていて、なかなかユニークである。

「半分幽霊」(城昌幸)
 代々続く老舗の未亡人と番頭とが座敷で寝入っていると、入水自殺した先代当主の伝右衛門が現れ、番頭を絞殺して行った。幽霊に十手をかけることはできない。この事件を聞いた若さまは、「ひとつ逆さまに考えてみるか」と調査に乗り出す。
 若さま侍捕物帖シリーズ。若さまと小吉の粋で軽妙なやりとりももちろんだが、簡潔でまとまった筋運びも魅力的だ。なかなかの好篇だ。

「呪術」(田中万三記)
 トラブルからノイローゼになり、佐賀の片田舎へ引っ込んだ佐田医師からの頼りに奇妙なことが書かれていた。その村にはベッドに寝たきりの結核患者がいるが、村人たちは感染を恐れて彼を村八分にしているという。その頃、子供が川に転落するという事件、それも踊りながら転落するという事件が相次ぐ。この患者が呪術で子供を殺しているという噂が立つ。寝たきりの患者が呪術で子供を殺せるのだろうか、手紙を受け取った森医師はその疑問を払拭できず、ある示唆を佐田医師に与える。
 オカルティズムと不可能趣味がジョン・ディクスン・カーを彷彿とさせるが、犯人の思惑通りに子供が転落しなかったら成立しない犯罪である。どちらかと言えば、プロパビリティの犯罪というべきだろう。でも、面白くは読んだ。

 以上が本号収録の短編小説である。収録作品はすべてそれなりに面白く読むことができたが、現在では名前を聞かなくなった作家さんたちもいて、時代を感じる。

<テキスト>
「旅と推理小説~エロチックミステリー」昭和38年5月号 宝石社

(寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)



投稿者 高槻カウンセリングセンター

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