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2018年6月25日 月曜日

6月25日:ミステリバカにクスリなし(14)「博士邸の怪事件」(#1080)

6月25日(月):ミステリバカにクスリなし(14)~『博士邸の怪事件』

『鉄鎖殺人事件』に引き続いて、浜尾四郎の『博士邸の怪事件』を読む。名作『殺人鬼』と並行して書かれた作品であるが、『殺人鬼』『鉄鎖殺人事件』に比べて、分量も内容も、いささか見劣りがするように感じている。
 本作も藤枝探偵が登場するが、ワトソン役の小川は登場せず、全体が三人称で書かれている。
 物語は、歴史学の権威、簑川博士がラジオ講演の出番待ちの場面から始まる。これから公演をすることになっているのに、二度も博士夫人からラジオ局に電話が入る。百合子夫人の言うところでは、大阪の母親が亡くなったという連絡が入ったので、今から一緒に大阪に行ってくれということだった。博士は無理だと言い、家内のいつものヒステリーが始まったと思う。講演を終えて、帰宅すると、夫人が扼殺されているのを発見する。博士の連絡によって、検事たち一行と藤枝探偵が現場に到着するが、夫人の死体にはおかしな点があった。博士の話が本当であれば、夫人は19時半頃に殺されたことになるのだが、この死後硬直からすると13時頃に殺されていなければおかしいのだった。
 博士はウソをついているのか。しかし、夫人が夜まで生きていたという証人も現れる。そして、あろうことか、藤枝探偵に弟子入りしていた井上が容疑者として浮上してくる。

 この事件は、百合子夫人の殺害時間、殺されたのが昼だったのか夜だったのか、を巡って謎が構成されている。百合子の母親の死がそこに関係するところが面白い。この母親は資産家であった。母親よりも先に娘が死んでいればこの娘に遺産の相続権はない。遺産を相続するためには、娘が母親よりも後に死んだことが証明されなければならないわけだ。
 このような背景があって、殺害時間をごまかすための処置が取られていたのだけど、このトリックはフェアといっていいのかどうか疑問が残る。

 基本的に本格推理小説であり、手がかりはすべて読者に提示されているのだが、どうも凡庸な感じが残る。力作と力作に挟まれた凡作といった位置づけをしたくなる。
 個人的な体験では、前半は割りと面白く読めるのだけど、後半になるほどダレてくる。ワトソン役の小川が登場しないのも難点だ。それに、主人公に弟子入りしている見習い探偵に容疑がかかるなど、いささかプロットに余剰なところが感じられてしまった。弟子が容疑者になってしまうことで、藤枝探偵の動きが制限されてしまったように思われてくるのだ。百合子夫人のヒステリーも、いささか誇張的というか、物語に都合を合わせるような感じがした。
 あと、これは原文がそうなのか、編集の都合でそうなったのかは不明だけれど、会話場面にて、これはどちらの発言なのかはっきりしない箇所もあった。例えば、会話の流れからすると藤枝探偵のセリフのはずなんだけど、相手に向かって「藤枝君」と呼んでいたりするのだ。僕の読み間違いであれば、それはそれでいいのだけど、どうも気になった箇所がいくつかあった。
 悪いところばかりでもない。相続に関する問題など、法曹界で仕事をしてきた著者ならではという感じもする。著者らしさが随所に現れてくるところはファンとして嬉しいところである。
 それに、タバコの吸い口でその人物を推理できるというくだりはなかなか興味深かった。タバコの吸い方一つ取ってもその人の個性や性格が現れるものだ。

 さて、僕の唯我独断的読書評は3つ星である。浜尾四郎は好きな探偵作家の一人なんだけど、本作はちょっと平凡だ。もっとも、繰り返して言うが、その他の作品が良かったので、その分見劣りしているだけなのかもしれないのだが。

テキスト
『博士邸の怪事件』(浜尾四郎)春陽堂


(寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)



投稿者 高槻カウンセリングセンター

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