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2017年1月 2日 月曜日

1月2日:レオーノフ『泥棒』読み終える

1月2日(月):レオーノフ『泥棒』読み終える

 今日、レオーノフ『泥棒』を読み終える。予定より2日遅れだが、最後まで読んだ。
 最後まで読むと、これがいい作品だということがよく分かる。一応、過去2回のように、第3部で起きる出来事を簡単にメモしておこう。

 泥棒に失敗して、ミーチャが町から逃亡したところで第2部が終わったのだった。第3部は、逃亡したミーチャが生まれ故郷に戻ったところから始まる。そこで腹違いの弟レオンチイと遭遇する。弟から父親が死んだことを知る。
 レオンチイは、表面的にはミーチャに友好的だが、内心ではそう思っていない節がある。ミーチャにとって、生まれ故郷にはもう何もなかったのである。
 その他の登場人物はどうなったか。
 ミーチャに片思いする歌姫ジーナは、病気になった娘の治療費をチキリョフから借りるが、返済不能になり、チキリョフの要求を受け入れる。ジーナは、ミーチャのことを断念し、望まない結婚を強いられてしまう。
 ミーチャの姉ターニャは、弟を救おうと、弟のかつての恋人マーシャに協力を求めるが、マーシャは断る。ここのやりとりは印象的だった。
 ターニャの婚約者であるニコールカは、商売を始めていたが、思うように利益が上がらず、金策に悩む。その頃、ニコールカの親友のゾーチェイは、ニコールカと血縁関係を結んでおくと得だと考え、姪をニコールカと結婚させようと企む。ニコールカは、親友の姪の持参金目当てに、ターニャを捨てようと決意する。
 二コールカがターニャに絶縁状を突きつけようと訪れたそのとき、ターニャの海外興行が決まろうとしていた。結局、ターニャと一緒になった方が金になると踏んだ二コールカは、ゾーチェイの目論見をご破算にする。
 ミーチャ、ブラグーシャの町に戻る。かつての部下だった忠実なサーニカを訪れる。サーニカを侮辱する巻き毛のドーニカに制裁しようと考える。病弱だったサーニカの妻は亡くなってしまう。
 ミーチャ、姉に別れを告げに行く。ちょうど、ターニャの最終公演の直前だった。この部分の姉弟のやりとりは印象的だった。ミーチャは強引で、もはや彼の中に他者が不在になっていることが窺われる。
 最終公演の本番、空中ブランコの芸を疲労しているターニャが墜落する。ターニャはそのまま帰らぬ人となる。
 ターニャの葬式で、主要な登場人物が再び一同に会する。元地主のマニューキンはすっかり落ちぶれている。チキリョフもアパート管理人の立場が危うくなっている。ジーナは奴隷のように感情もなくチキリョフの妻に納まっている。
 ミーチャにはもう何も残されていなかった。ただ、最後にドーニカに落とし前をつけなくてはならない。ドーニカを奇襲するが、失敗する。すると、そこに現れたのはサーニカだった。
 サーニカはミーチャと決別を表明する。このサーニカのセリフが実にいい。忠実で、もっとも信頼できる部下だったサーニカに裏切られ、見捨てられるミーチャ。こうしてミーチャが孤立していくさまが第3部の中心となっている。もはや、ミーチャには誰もいない。第2部では、ミーチャの心の中が空虚であることが示されたが、第3部ではそれが外的にも現実になっていく。
 ミーチャは職人のプチホフを訪れる。プチホフとの対話から、ミーチャは再生の道を踏み出そうと決意した(のだと思う)。そして、ミーチャがブラグーシャを去るところで、物語の幕が閉じる。
 エピローグとして、作家フィルソフの小説が発表され、批評されていることが描かれる。そんなフィルソフをマーシャが訪れ、その後の登場人物たちのことが語られる。

 革命時代も泥棒時代も、ずっとミーチャの忠実な部下だったサーニカまでミーチャを見放す。この時のサーニカの悲痛な訴えが胸を打つ。少し長いけど、引用させてもらおう。
「親分・・・わたしは何度あんたに警告しようとしたか知れないんですよ。あんたのと同じように脈打っている人間の心をおもちゃにしないようにってね。そういうわるさをすりゃ、どんなやけくそな結果が生まれるかわからないんだから・・・それなのに、あんたにとっちゃわたしの話なんぞ、どうだっていいし、きく暇もないってわけだ! どうやら、あんたは、わたしのものは全部あんたのものと決めてかかってたらしいやね。(略)。あんたは、わたしのものを全部取りあげたうえに、魂まで抜きとったんですよ、親分・・・死の天使でもないのに、引きぬいちまったんだ!(略)。あんたはほんとうの泥棒ですよ、親分!」
 サーニカは続ける。「あんたはきっとおとなしいやつには何をしてもかまわない、と思ったんでしょう! あんたはそういう気性だもの。いうことをきかないやつはへし折るし、いうことをきくやつは軽蔑するんだ。しかしね、おとなしいやつこそ、いちばん恐ろしい悪魔なんですよ」
 このサーニカのセリフだけ読んでも何の感動もないかもしれないけど、これまでの物語を読んでいると、このセリフがジーンとくるね。
 サーニカはミーチャの正体を、ミーチャが自分でも否認しようとしている正体を、赤裸々に暴き出しているのである。ミーチャは自分ではそうではないと信じていても、搾取する側、権力を振り回す側の人間であることを、サーニカが暴露するのである。革命で敵と戦ったけど、実際には敵側の人間と同類であることをサーニカはミーチャにまざまざと見せつけるのである。いくつもの喪失を経験しているミーチャに、無情なとどめが加えられるのである。
 そして、おそらく、ミーチャとサーニカの関係は、当時のロシアの状況を象徴しているのだろうと思う。ロシアの状況や歴史に詳しくないので、なんとも言えないけど、そうなんじゃないかと思う。
 サーニカの他にミーチャの正体を見抜いていた人物がいるだろうか。はっきり断言はできないけど、マーシャには見えていたかもしれない。姉のターニャには見えていなかっただろうが、最後の別れの場面でそれがはっきり見えたかもしれない。その後、ターニャが墜落死してしまうのは、ターニャの無意識的罪悪感(つまり、無意識的に自分を処罰する)のためかもしれない。

 さて、本作であるが、最後まで読むと確かにいい作品である。しかし、最後まで読むのは少しばかり骨が折れる。それに、僕にはどうしても二重構造(レオーノフの作品の中でフィルソフの作品が挿入されるなど)が読みにくくて、最後まで馴染めなかった。
 唯我独断的評価は4つ星半を進呈しよう。

(寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)



投稿者 高槻カウンセリングセンター

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