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2016年12月 1日 木曜日

12月1日:ミステリバカにクスリなし7~『台風圏の男』

12月1日(木):<ミステリバカにクスリなし―7>『台風圏の男』(栗田信)

 アカン、アカンと思いつつ、またもや手を出してしまった『ミステリ珍本全集 栗田信 醗酵人間』。今回はそのパート3にあたる『台風圏の男』を読む。
 この作品は、退役した泥棒で、今では警察の手伝いをしたり、探偵のような仕事をしている緒方正平を主人公にした7つの短編から成っている。

 その第1話ではクモ男が登場する。醗酵人間、改造人間に続いてクモ男である。まず、このクモ男の誕生を見てみよう。
 戦時中、南洋のある国で、一人の日本人男性が現地女性を身ごもらせた。生まれた子供は体がくっついた双子、いわゆるシャム双生児であった。父親はこんな奇形児は捨ててしまえと、この子を遺棄してしまう。このシャム双生児が後のクモ男である。成長した彼は、自分と母を捨てた父親に復讐するのである。
 そこまではまだいいとして、この後である。双生児は父親によって遺棄された。するとたまたまそこに居合わせたタランチュラが、「こいつも足が8本ある、だからこいつは俺の仲間だ」と信じ、双生児はクモ世界で育つことになった。
 心理学の世界では、「野生児」の記録というものがある。オオカミなどの動物に育てられた子供の記録なのだけど、まさかクモに育てられるとはね。しかも、手足が同じく8本あるからという理由だけで、クモが自分の仲間だと信じたと言うのであるから、なんともムチャクチャや。こんなこと、凡人と天才にはできない発想である。
 成長したクモ男は、サーカスの見世物小屋に入り、世界各地を巡る。そして、念願の日本に来た時、彼はサーカスを脱走し、二匹の忠実なタランチュラ子分、トラントウラとトランドウラを率いて、復讐を果たすのであった。
 しかも、復讐を果たすと、ご丁寧にもクモ男は緒方正平に電話をかけ、自分の生い立ちや感謝の意を伝えるのである。スゴすぎる。
 ちなみに、醗酵人間はヨーグルト・マンだったが、クモ男は何と呼ばれるのか。クモ男のセリフより、「左様、俺は蜘蛛男だ。が、蜘蛛男なんて不粋な呼び名は止めて貰い度いな。ミスター・スパイダーと呼んで貰い度いな」。ミスター・スパイダーって、そこはさすがにスパイダーマンじゃないんだ。

 1話目がぶっ飛んだ内容なだけに、2話目以降が霞んで見える。
 第2話では、殺人の依頼を受けた殺し屋が殺されるという二重殺人事件を描く。
 緒方正平には二人の子分がいる(ここはクモ男と同じだ)。変装の名人である渋谷伸二と腕っ節の強い鉄である。第3話と第4話は、いわゆるスピンオフというのか、この二人がそれぞれ主人公である。
 渋谷伸二が活躍する第3話は、映画界でのスターの怪死を渋谷が解決する。第4話では、鉄が悪の道に進む契機となった出来事が綴られる。

 あとの3話は、女の悲劇が描かれる。ミステリとか謎解きよりも、弱者である女性の中でもさらに立場の低い女性たちが酷な体験をしてしまう物語である。
 第6話の終わりに第7話のプロローグが来ているのは、何か理由があってのことだろうか、それとも、雑な作りの出版社のせいだろうか、はっきりしない。ペリイ・メイスンシリーズのように、毎回最後に次回作の依頼人が登場するのと同じような手法を用いたのかもしれないけど、成功しているとは言い難い。唐突過ぎて、訳が分からなくなった。7話目を読み終えて、それが7話目のプロローグだったことが分かったくらいだ。
 その第7話もけっこう凄い内容だ。緒方正平は前科者たちのために自動車修理工場を持とうとする。ところが資金が足りない。不足の資金を、限りなく強請りに近いやり方で調達する物語である。

 主人公の緒方正平は、かつては凄腕の泥棒で、前科7犯の経歴を持つ。要するに7回も逮捕されているということであるが、そこは問わないことにしよう。泥棒家業から足を払い、今では探偵業をしている人情に篤い男である(ように思う)。アルセーヌ・ルパンのような義賊がイメージされていたのかもしれないが、いささかキャラクターとしてははっきりしないところがあるように感じた。
 全体として、作者は、立場的に弱い人たち、苦しい境遇に喘ぐ弱者たちを描こうとしている(ように思う)。そこは一つの魅力である。「醗酵人間」にもこういう弱者が多く登場していたように思うので、そこに栗田信さんの一つのテーマがあるのかもしれない。
 ところが、1話目の衝撃が大きすぎて、続く作品群が普通すぎるように見えてしまう。そういう点で、もう少しバランスが良ければ良かったのにと思う。いっそのこと、最後までクモ男を登場させて、緒方正平と推理合戦をやらせれば面白かったかもしれない。

 さて、僕の独断的評価としては、三ツ星を進呈しよう。「醗酵人間」や「改造人間」と比較すると、「まとも」(ただし第1話目を除く)な感じがするからである。普通に物語として読むことができる(ただし第1話目を除く)のがいい。

(寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)



投稿者 高槻カウンセリングセンター

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