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2016年10月 7日 金曜日

10月7日:ミステリバカにクスリなしー1『テニスコートの謎』

10月7日(金):<ミステリバカにクスリなし―1>
『テニスコートの謎』(ジョン・ディクスン・カー)

 いつもの「唯我独断的読書評」からミステリ部門を別に作った。ミスバカにクスリなしとは、その名の通りで、ミステリバカに効く薬はなく、ミスバカは死ぬまでミステリを読むしかないという悲観的事実を表現している。
 僕は推理小説がすごく好きだった。最近、少しずつ読むようにしている。僕の中に謎がある。だから謎が解かれる物語に惹かれるのだ。
 本作は、カーの1939年発表の作品である。デビューから10年頃の作品で、脂の乗り切った時期のものである。
 ところで、カーの作品というと、『ユダの窓』『火刑法廷』『不可能犯罪捜査課』など、タイトルを聞いただけでゾクッとしてしまう作品がある一方、すごく俗っぽいなと思うタイトルのものもある。まあ、それは僕の個人的な感情だけど。
この『テニスコートの謎』という作品は、僕の中では読まず嫌いの一作だった。どうもタイトルが通俗っぽくて、食指が動かなかったのだ。でも、あくまでもそれはタイトルだけの話で、タイトルと中身は別であるということも、今回改めて発見した。
 あまり内容に触れるわけにはいかないけど、事件発生までの流れを綴ってみよう。これくらいは許されるだろう。

 物語はテニスコートで仲間を待つブレンダから始まる。そこに青年弁護士のヒューが来る。ブレンダは近くフランクと結婚することになっているが、それは金と彼らの後見人であるニックのためになされるものであって、ブレンダはフランクを愛していないことをヒューは知っている。それにフランクには性格的な欠点がある。フランクとの結婚を破棄して、自分と結婚してくれとヒューはブレンダに頼む。この一部始終をフランクは見ており、フランクはヒューを揶揄する。フランクの嫌な部分が描かれる。自己愛型、もしくは境界例に近い性格の人物であるように僕には感じられた。
 メンバーが揃ってテニスがプレーされる。その頃、ブレンダとフランクの後見人であるニックは、ハドリー警視の訪問を受けていた。フランクは売り子のマッジという女性とトラブルを起こしており、マッジは自殺未遂を起こしている。マッジの恋人アーサーはフランクに恨みを抱いていると言う。
 テニスコートに雨が降る。激しい風雨となる。テニスを続けられなくなった彼らはあずまやに一時避難する。そこで殺人談義が持ち上がる。この殺人談義が後のブレンダの思考や感情に大きく影響することになる。
 さて、メンバーは解散する。ヒューは車がパンクしているのを知り、テニスコートのあずまやに空気入れがあるのを思い出し、戻る。そこにはブレンダがいた。そして、テニスコートの中央には絞殺されたフランクの死体が転がっている。ぬかるんだコートにはフランクの足跡があるが、そこには、当然あるべきはずの犯人の足跡が残されていなかった。
 以上、事件が発生するまでの流れである。物語は、以後、ヒューとブレンダを中心に記述される。そのため、探偵のギデオン・フェル博士は、すぐに登場するものの、ほとんど表に現れてこない。この辺りはちょっと消化不良感がある。
 さて、本作の最大の謎は、犯人はどうやって足跡をつけずにテニスコートの中央でフランクを絞殺することができたかという点にある。これが可能であるためには、テニスネットの上を歩けないといけない。そんなこと曲芸師でないと無理だ。すると、心憎いことに、ちゃんと曲芸師が用意されているのである。アーサーがそれである。
 アーサーにはそれが可能と見られており、尚且つ、フランクに恨みを抱いている。動機もしっかりある。有力容疑者であるが、しかし、アーサーは空中ブランコの稽古中に射殺されてしまう。衆人環視の中での殺人である。

 さて、本作は警察側から記述されていない。そのためにフェル博士の出番も少ないのだが、それでもサスペンスフルな展開を見せる。
 まず、第一発見者のブレンダは自分が疑われると信じる。ヒューは彼女を助けるために現場に細工をする。一方、ニックはヒューが犯人だと主張し、警察の容疑をヒューに向けようとする。ヒューは恋人と自分自身を守るために虚偽の証言をしなければならない羽目になるが、同時に、容疑を晴らすためには真犯人を見つけなければならない立場に置かれることになる。また、アーサーも事件現場を動かしているので、謎が錯綜してしまうのである。つまり、犯人、アーサー、そしてヒューたちが犯行現場をいじくっているわけだ。
 足跡の謎であるが、これには機械的な手段が取られている。僕が感心するのは、こういう機械的トリックの是非ではなくて、犯人はこの手段を採るしかなかったという必然性があったという点である。その根拠がしっかりしているので、違和感なく読むことができた。おっと、もうこれ以上内容に触れるのは止めておこう。

 評価は4つ星としておこう。あまり期待せずに読んだところ、意外と面白かったために、いささか評価が高くなってしまったかもしれないな。

<書籍>
『テニスコートの謎』(The Problem of the Wire Cage,1939)ジョン・ディクスン・カー 著
厚木淳 訳 創元推理文庫(1982)

(寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)



投稿者 高槻カウンセリングセンター

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