<Q029>他所を知りませんか

<Q029>「他所を知りませんか?」

<状況と背景>
 カウンセリングを受けたいけど、どこか知りませんかと尋ねてきた例です。もちろん、この人は私のクライアントではありません。どこか他所のクライアントであるかもしれません。私は私のところで受けるのであれば受け付けると申し上げたのですが、その後で、「いや、他所がいいんです」とお答えになられたのでした。

<A>
 これにはもう答えも何もないのです。
 こんな質問を寄こされる私がつくづくイヤになりました。そして、この究極の愚問にいちいち答えようとしている今の私にウンザリしています。
 この「あなたのところでは受けません。あなたは他所を紹介してくれればそれでいいんです」という態度に、私も怒りを通り越して、呆れてしまいました。
 これをシチュエーションを変えてみましょう。ラーメン屋に入って、お宅では食べません、他に美味しいラーメン屋を知りませんかなどと、あなたは尋ねることができるでしょうか。気の荒い店主なら只事じゃすまないかもしれません。つまり、それくらい人をバカにしている質問であるということです。それが平気で出来るというところに、この質問者の問題が絡んでいるのだと思います。

<補足と説明>
 まあ、こんな極端な例は限られているのですが、他所を知らないかという質問は時折受け取るのです。次の<Q030>もその一例であります。今後、この種の質問が寄こされることのないように、ここで明記しておこうと試みているのです。
 私はまず他所さまのことなど何も知りません。他所がどういうことをやっているのか、どんなふうにやっているのかなど、私にはまったく興味がありません。だから、そういう情報を全然有していないのです。いちいち他所様のことを調べる手間と時間が無駄に思えてくるのです。私には私の取り組んでいることがあり、それで手一杯なので、他所のことを調べるなんてできないのです。
 だから、私に他所さまのことを尋ねられても、まったく無駄であります。他所を知りませんかと尋ねられても、まったく知りませんとしか答えようがありません。そもそも、自分で根気よく探せない人は、どこへ行ってもダメだろうと私は考えています。

 さて、この人は「いいカウンセラー」を探しています。それはいいでしょう。この人にとっていいカウンセラーさんと出会えるのであれば、それはそれでいいと思います。だから、この人がいいカウンセラーを自分で探す分には何の問題もありません。
 しかし、何があったのかは知りませんが、この人は自分で探す労を省略しようとしているのです。どのような仕方で自分の負担を省略しているか、そのやり方に注目したいと思います。
 この人は専門家に尋ねるということをしています。この専門家とは、つまり私ということなのですが、他を推薦してもらうために利用されているのです。「あなたの所ではお世話になりません。でも、あなたが推薦してくれるところは信用します」という形でこの人は利用しているわけです。この人は専門家を、ひいては他者を、このようなやり方でこれまでも利用してきたのかもしれません。
 この利用の仕方は、実は他者の価値下げをやっているということなのです。従って、この人がこうした価値下げをいろんな他者に対して行ってきているとすれば、自ずと、この人の抱える「病理」が明らかになるというものであります。そこは詳述しませんが、この問い自体がこの人の「症状」を示しているという可能性は考えられるのであります。
 この質問者がそういう人であると想定してみましょう。その上で、私が「ここへ行ったらいいですよ」と他所を紹介したとしましょう。この人は過剰なほど私に感謝するでしょう。自分の願望が成就すると同時に「症状」が満足を得るからです。でも、間違いなく「第二弾」がやってくることでしょう。
 この「第二弾」がどういうものであるかは何とも言えません。「教えてもらったところにいったけど、アカンかった、どないしてくれんねん、責任を取れ」というものであるかもしれませんし、「あそこは上手くいきませんでした。だからもっと別の所を紹介してください」というものであるかもしれません。彼の「症状」が改善されない限り、彼は私との間でその「症状」を満足させてしまうでしょう。それは、結局のところ、私が今後とも彼の「症状」を助長し、彼の「症状」に振り回され続けることを意味するのです。
 こういうことは「分割(スプリッティング)」のなせる技だと私は思います。私は「症状」を助長する悪い臨床家で、他は「症状」を除去してくれそうな良い臨床家というように、彼には体験されていることでしょう。
 まあ、実際にお会いしたわけでもないので、あまりこの人のことを考えるのも控えておきましょう。細かい点に関しては、次の<Q030>を参照していただければと思います。

(文責:寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)