<Q015>考え方を変えるには

<Q015>「考え方を変えるのはどうしたらいいですか?」

<状況と背景>
 何人かのクライアントさんや問い合わせでこの質問を受けたことがあるのですが、ここではある一人の人を想定しています。
 その人とのやりとりはこんな感じでした。
 まず、電話が鳴ります。私が出ます。相手は男性でした。男性はいきなり
「考え方を変えるのはどうしたらいい」
 と言ってきます。
私「ああ、そう、あなた、考え方を変えたいと思っている」
男性「だから、どうしたらいい」
私「どうして考え方を変えようと思うのですか」
男性「考え方を変えると上手くいくと本で読んだからだ」
私「そう、そんなことを読んだのですね(本心―それならその著者さんに質問しなさいよ)
男性「だから考え方を変えたいのです」
私「だから、どうして考え方を変えたいのです?」
男性「変えたいからだ」
私「では、何のために考え方を変えたいんです?」
男性「もういいです」と言って電話を切る。
私「考え方を変える前に考えることをしてほしいものだ」と、切れた電話に向かって小さく呟く。

<A>
 まず、この人の、面接を受けるでもない、でもカウンセラーだけは無料で利用するというその考え方こそ変えてもらいたいものだと私は思います。
 私は、個人的には、考え方を変えたら上手く行くとは考えていません。上手く行く場合もあるくらいにしか考えていません。それにプラス思考やマイナス思考という考え方もしておりません。マイナス思考も時には必要な考え方であるとさえ私は考えています。

<補足と説明>
 上述の男性に限らず、考え方を変えたいと訴える人は、私のお会いした限りその全員が、何のために考え方を変えようというのかを明確にしていないのです。まず、それに関して、私の見解を述べようと思います。
 私たちが自分の考え方を変えようと考えるときには次の二つの目的があります。
 一つは、自分の考え方を変えることによって、この状況を維持し、この状況に適応していこうという目的です。自分を順応させるために、自分の考え方を変えるというわけです。現状維持を目指した考え方と言えるでしょう。
 もう一つは、自分の考え方を変えることによって、この状況を変えていき、自分を変えていこうという目的です。こちらは変革を目指した考え方と言えるでしょう。
 変革を目指すか、現状維持を目指すかによって、どのように考えるかというその考え方が変わってくるのであります。従って、何のために考え方を変えるのかが明確になっていなければ、どうにも考えようがないということになるのです。

 余談ですが、認知療法とか論理療法というのは、根本に後者の考え方があるのです。変革のために認知や思考を変えていこうという姿勢が基本にあるのです。
 日本人は、私の偏見かもしれませんが、前者の現状維持、順応の目的で認知療法を求める人が多いという印象を受けています。

 さて、思考というものはそれだけで切り離すことができないものであります。人間に属するものはすべて単独に切り離せないものだと私は考えています。思考は認識や感情ともつながっており、思考だけで独立しているのではないのです。
 従って、考え方を変えるというのは、単に思考方法を変えるということではなく、その人の全体が変わっていくということが前提なのです。その人が世界や他人をどのように見て、どのように体験しているか、どんな感情体験をしているか、そういったことを抜きにして考え方だけ変えるというのは、片手落ちであり、無理な話であると私は考えています。

 私が比較的頻繁に観察するのは、頭では考え方を変えたけど、気持ちは何も変わっていないということで葛藤を経験されている方々です。
 頭ではこうしたらいいということが分かっているけど、気持ちがついていかないというジレンマを経験されているのです。私はそれがよく分かるのです。私もよくそれをやってしまうからなのですが、この葛藤、まず、思考の方が負けてしまうのです。
 案外、考え方を変えるというのは簡単なことかもしれないのです。こんなときはこう考えようと決めることは簡単なことなのです。思考に関してはいくらでもそれができるのです。
 しかし、気持ちとか感情の方はそうはいかないのです。思考はいくらでも表面を取り繕うことができるけど、感情や気持ちはごまかすことができないからです。だから、思考と感情の葛藤がある場合、感情の方が勝ってしまうのだと私は思うのです。
 考え方を変えました、でも、上手くいきませんでした。そういう例がどれほどあることでしょう。あなたもそういう経験をお持ちではないでしょうか。思考だけを他から切り離して、思考だけを変えるということは、簡単にできることなのだけど、人間は全体的な存在であるために、上手くいかないものだと思います。

 上述の男性も、はっきり言って、上手くいかないのは、彼の考え方ではなくて、感情の方にその要因があるのだと私は考えています。普段から自分の感情や気持ちに目を向けられないので、考え方を変えると上手く行くという説に飛びついてしまったのではないかと憶測しています。つまり、そのやり方は「考え方を変えるだけでいいんだ。感情とか気持ちは別に触れなくてもいいのだ」と思えるからであり、そう思えれば当人が安心できるからであります。

(文責:寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)