<Q014>人間は変わらないと思います。

<Q014>「人間は変わらないと思います」

<状況と背景>
 この「人間」が当人自身である場合もあれば、他の誰かという場合もあります。それによって考える事柄に違いが生まれ、回答も異なったものになると思います。
 また、ここでの「変わる」というのは、要するに「良くなる」という意味合いを指していることが多いようであります。
取り敢えず、本項では、それが自分のことであれ、他者のことであれ、細かいところは度外視して、この問いを字面通りに取り上げます。

<A>
 私の個人的な考えですが、人間には変わらない部分もあれば、変わり得る部分もかなりあると思います。後天的に身に付けた事柄はかなり変えることができるのではないかと、いささか楽観的ですが、私はそのように考えています。
 また、「変わらない」と信じられてしまうことも無理ないことだと私は考えています。と言うのは、変化というものは自分では分からないものでありますし、小さな変化は見過ごされてしまうことが多いからです。そのために自分が一定不変のように体験されているとしても、それは無理ないことであるというわけです。

<補足と説明>
 人は自分を変えていくことができるし、実際、変わっていくものだと思います。その一方で、まったく変わらないという人もおられるでしょう。この違いは何かということを以下に述べたいと思います。
 継続的なカウンセリングにおいても、その中で変わっていくクライアントもあれば、変わらないクライアントもおられます。後者の場合、例えば、変わるということに抗っていたり、自分が変わるということが信じられないでいたり、変化とか改善ということを過度に恐れていたりといった人も少なからずおられたように思います。
 人間には二つの方向性があるという視点があります。それは自分自身を拡張していくという方向と自分自身を制限していくという方向です。変化はそのどちらの方向にも向かいうるものであります。
 能力開発の研究では、拡張していくタイプの人の方が能力をより多く、速やかに身に付けるという結果も出ているそうです。それもそのはずです。自分はこんなものだと捉えている人と、やってみればもう少し伸びるのではないかと捉えている人とでは、当然、結果にも違いが生まれるでしょう。
 「人間は変わらない」と信じている人は、どこか自己制限タイプの感覚をお持ちであるように私には思われるのです。特に「わたしは変わらない」と信じている人はそうだと言えそうです。
 こういうことを述べると、必ず批判する人もあるので、あらかじめ弁明しておこうと思います。その批判とは、「クライアントが変わらないのを、そのクライアントの信念やタイプのせいにしている」という批判です。決して、そのようなことを述べているのではありません。今、論じているのは、「変わらない」と信じている人の自分自身に対する態度のことを述べているのであり、私がどこかに原因や責任を帰属させようとしているものではないということを明記しておきます。
 従って、その人の態度や構えが変わってくると、変わらないと信じていた人も変わっていく可能性が開けていくのです。
 もう少しこの二つの方向性について私の考えを述べれば、人間は本来自己拡張的に生きる存在だと考えられています。それは子供を見ればよく理解できることです。そして、自己制限的な方向は後から身に付けた傾向であると私は理解しています。後から身につけたものであるが故に、それは変容の可能性を有していると私は考えています。
 現実には、一人の人間の中に拡張と制限の両方の傾向があるもので、どちらがより強いかの違いであるだけのようにも思います。
 しかし、自己制限的な構えの人は、自己を制限するが故に世界が縮小してしまい、自身の可能性が狭められ、自己を当てにしていくことが難しくなっていくので他者依存率も高くなることでしょう。それらはさらに自己制限的な構えを強化してしまうという循環を生み出していることもあるでしょう。
 一方、自己拡張的な構えの人は、自己を拡張しようとするが故に、世界が開かれているように体験するでしょうし、自分でやってみようといった主体性もより強まるでしょう。こうしてその人は自己拡張的な方向を強化していくことになるかもしれません。
 両者の違いとはそれだけなのかもしれません。自己制限的な人はその傾向を強める生き方を送るようになっているだけなのかもしれません。
 最後に、これまで述べてきた限りでは、いかにも自己制限的な傾向が望ましくないもののように思われたのではないかと思います。しかし、人間は自己制限的な傾向も有しているべきだと私は考えます。どこかで自分の領域の限界を設けることで、私たちは一つのことに努力を集中できるのだと思います。自己拡張的すぎて、自分自身が散漫になるようだとすれば、この望ましい傾向も障碍となってしまうでしょう。

 長々と綴ってきましたが、簡単に要点だけ記しておこうと思います。
 「人間は変わらない」と信じている人は、小さな「変化」を「変化」として認識することができず、それらは見過ごされることが多くなるでしょうし、それだけ「変わらない自分」を見ることが多くなってしまい、「変わらない」他者を発見する機会が多くなるでしょう。こうした体験は、「人間は変わらない」という信念をさらに強化していくことになるでしょう。
 身体の病気でも同じことが言えるようです。「治る」と信じている人には「治癒」がもたらされ、「治らない」と信じている人には「不治」がやってくるのです。「治らないから終わりだ」と信じている人には終焉が訪れ、「治らなくても良い人生は送れる」と信じている人には生活の充実がもたらされることになるでしょう。
 すべて、自分の信念に適合するものを人は見出してしまうからであります。

(文責:寺戸順司―高槻カウンセリングセンター代表・カウンセラー)